♪愛玩-2
(…… …… …… ん? 誰? だれか? 誰か、近くに居るのか? しっ しお…… 汐莉ちゃんなのか?)
どれ位の時間(とき)が経ったのか?
それともほんの数秒の間隔をおいてなのか?
それすら判断出来かねる程に、俺の意識は混濁していた。
《おやっ? お目覚めかい?》
「!?」
その聞き覚えのある声に、俺はギョッとした。
それは忘れもしない、“あの”枯れ木の様に朽ち果てた老人の声であった。
《その様子じゃ、どうやら、良い夢が見られたようだな?》
「どうして、あんたがここに?」
俺の身体は変わらず、異常なまでの倦怠感に包まれたままで、何とか声を発するのがやっとの状態であった。
《どうしても、こうしても、……無い! おまえさんは、自ら望み、その欲望に従ったのだ。…… そして望みが叶えられた以上、それに応じた対価が必要になったに過ぎない》
「いったい、何を言っているんだ? それに汐莉ちゃんを何処へ? 汐莉ちゃんをどこへやったんだ? まさか、あんた……?」
俺の思考は乱れ、すでに崩壊寸前の状態と言えた。
おそらく目の前に居るであろう、あの老人の視点から言えば、ひどく滑稽に映っているに違いない。
《しっ しおり…… 汐莉ちゃん、ねえぃ? ふっ ふわぁ、はっ はっ》
老人は薄気味悪くも、侮蔑に満ちた笑い声をあげる。
「…… 」
《あの少女の事なら心配いらぬ。そんな事より…… 下等な地上人の雄にとっては、過ぎたる至福の時間(とき)であったろう? まさに千載一隅の機会と言うやつじゃ! たとえ僅かな時間と言えど、“天女の血”宿す者と触れ合う事が叶ったのだからな。これで、もう…… 》
「おいっ! いったい何を言っているんだ。地上人とか? 天女とか? どう言うことなんだ?」
俺は燃え尽きる直前の蝋燭ように、最後の気力を振り絞り、怒りにも似た疑問を大声で叫んだ。
『おにいちゃん、もう、おわったんだよ』
「えっ?」
それが俺が最後に聞いた声(しおりちゃんのことば)であった。