36章-1
「き、鏡哉さん……?」
不安からどもってしまった美冬を、鏡哉がさらに抱きしめる。
「そんな可愛いおねだりをして、私を心臓発作で殺すつもりか――?」
やっと口を開いた鏡哉が、切なそうな掠れた声音で美冬に問いかける。
「そ、そんなこと――」
ただプロポーズをしただけなのにおねだりと言われてしまい、美冬は困って口を開く。
しかし次に鏡哉が口にした言葉を耳にし、息をのんだ。
「やっと……やっと、手に入れた――」
感極まった様な鏡哉の声に、美冬の胸もきゅうと締め付けられる。
緩められた腕から顔を上げると、まるで泣きそうな鏡哉の端正な顔がそこにあった。
震えた掌が美冬の小さな顔を包みこむ。
「やっと……私のものだ」
触れた指先から掌から、鏡哉の気持ちが流れ込んでくるようだった。
不安と、いつか失うかもしれないという恐怖と、そして紛れもない喜びと。
「―――っ」
(ごめんなさい、いっぱい待たせて。
ありがとう、待っていてくれて――)
けれど唇から零れた言葉は、強がりなものだった。
「馬鹿ね……私は最初からずっと鏡哉さんのものよ――」
そう言って笑った美冬に、鏡哉もやっと堅かった表情を緩めた。
くすりと困ったように苦笑した鏡哉が、美冬に顔を寄せてくる。
美冬の小さな唇に、鏡哉のそれがそっと重ねられる。
唇を触れさせるだけの優しい口付け。
いつもなら深く求めてくる鏡哉がゆっくりと離れていく。
不思議に思って瞼を開けると、目の前に鏡哉の意地悪そうな笑顔があった。
「今、美冬は私のものって言ったよね?」
なんでそんなことを確認するのだろうと美冬は頷こうとしたが、なぜだか嫌な予感がして眼前の鏡哉から目を逸らす。
「こら、目を逸らすな」
頬を両手で捉えられ、強引に瞳を覗き込まれる。
「言ったよね?」
鏡哉の瞳が欲望に濡れているのに気付いた美冬は、「い、言ってません!」っと反抗する。
「言ったよ。それに私のお嫁さんにしてって可愛いおねだりまで」
わざと美冬の羞恥心を煽るように意地悪くそう口にした鏡哉に、美冬の頬が徐々に熱を持っていく。
「やっ」
恥ずかしくて美冬は目の前の鏡哉の胸に両手をついて離れようとするが、鏡哉はびくともしない。
「これで心身ともに美冬は私のものだ。もう我慢しないよ――」
「な、何言って……んぅ――っ」
訳が分からなくて鏡哉に問いかけた美冬の言葉は、鏡哉の口腔へと吸い取られた。
巧みな舌使いで半ば強引に口内を蹂躙され、美冬の意識は朦朧とし、その瞳には恍惚とした光が宿り始める。
一ヵ月も鏡哉に触れていなかった美冬の体は、鏡哉のキスひとつでいとも簡単に官能の火がついていく。
ようやく長い口づけから解放されてはぁと甘いため息をついていると、鏡哉は美冬のドレスの首のリボンを解いていく。
徐々に露わになっていく美冬の白皙の肌に鏡哉が舌を這わせていくのを感じ、美冬は恥ずかしいながらもこれからの鏡哉との生活に思いを馳せてゆっくりと瞼を閉じた。
「……んん……ぁあ……もっ……だ、ダメ……」
しんと静まり返った客間に、美冬の切なそうな喘ぎが響く。
レースのカーテンの向こうからは、すでに傾き始めた春の日差しが差し込んでいる。
ぴちゃりという水音が朦朧とする美冬の鼓膜を揺らす。
水を飲むようにわざと音を立てて美冬の秘裂を嬲(なぶ)る鏡哉は、ピンク色に膨れ上がったそこにふっと息を吹きかける。
それだけで美冬の蜜壷は戦慄き、透明な蜜を滴らせた。
「ダメなんかじゃないよ、美冬。君の下の口は可愛らしい唇とは違って正直だよ」
そう言葉で虐めると、美冬は「やぁ……言わ、ないでぇ……」と羞恥に頬を染めて鳴く。
その声が掠れている事に気付いた鏡哉は美冬の愛液に濡れた唇をぐいと拭うと、体を起こしてサイドテーブルのペットボトルに手を伸ばした。
中身をあおると半開きになった美冬の唇に唇を合わせ、強引に水を与える。
与えられたそれをこくりと嚥下した美冬の唇から、一筋水滴が垂れる。
それをぺろりと舐めあげるだけで、美冬の薔薇色の頬がふるりと震える。
「ぁん……」
そんな微かな刺激にも可愛く鳴いてくれる美冬が愛おしくて、鏡哉の唇から笑みが漏れる。
微かに震える長い睫も、とろんと潤んだ黒曜石のような艶やかな瞳も、吸い付きすぎて少しふっくらと腫れてしまった紅い唇も全てが愛おしくて、鏡哉の雄を煽る。
鏡哉は美冬の顔から華奢な肢体へと視線をずらす。