35章-4
鏡哉に与えられるばかりで甘えることしか出来ない自分に。
少なくとも彼と対等な自分にならない限り、結婚だなんて考えられなかったのだ。
けれど大学卒業を目の前に、そうした自分に疑問を持ち始めた。
美冬が弱気になっている時でも、鏡哉は温かい目で見守ってくれた。
上手くいかない自分に苦しんでいる時でも、鏡哉は静かに傍にいてくれた。
ただ傍にいることしかできない自分なのに、鏡哉はいつも幸せそうに笑ってくれていた。
それに気づいたとき、目から鱗が零れ落ちるようだった。
自分は全然完璧じゃないけれど、鏡哉はそれを受け入れてくれていた。
(ただ自分がこだわっていただけだったのだ――完璧な自分にならないと鏡哉さんに相応しくないと)
やっとそう気づいたのは卒業を目の前に控えた数日前だった。
だから鏡哉が帰ってくる明日、まずそのことを伝えようと思っていたのだ。
美冬は自分の頭に添えられた鏡哉の大きな掌を握った。
「貴方を愛しているから、私は貴方を一人ぼっちにはしない」
美冬はそう呟くと、見下ろしてくる鏡哉ににこりと笑う。
暗い色を湛えた鏡哉の瞳が少しずつ見開かれる。
「長い間、待たせてしまってごめんなさい。いつも回り道ばかりして、ごめんなさい」
「美冬……?」
鏡哉の形のいい唇が、震えながら自分の名を呼ぶ。
「これからもいっぱい迷惑をかけると思うけれど、それでも私は貴方と一緒にいたい――」
「………」
もはや鏡哉は無言で美冬を見つめていた。
美冬は覚悟を決めるように瞼をつむる。
そして大きく息を吐き出すと、ゆっくりと瞼を開いた。
「私を貴方のお嫁さんにしてください」
寝室に美冬の凛とした声が響く。
頭に添えられた鏡哉の掌にぐっと力が込められたと思ったら、美冬はその胸に引き寄せられた。
スーツ越しに驚くほど早鐘を打つ鏡哉の心音が聞こえる。
背中に回された腕が苦しいほど美冬を抱きしめてくる。
美冬の言葉にしばらく何も発しない鏡哉に、美冬は徐々に不安になってきた。
「き、鏡哉さん……?」