10章-3
片足の膝を曲げてから振り上げて伸ばし、同時にもう一方の足で踏み切り前方に高く跳ぶ。
踏み切った足も後ろに伸ばし、空中ではスプリットした様になる。
特にヴィヴィは柔軟性が高いので、百八十度よりもっと、二百度の開脚が可能となる。
けれど、
(これじゃ駄目――)
しっくりこないヴィヴィは、iPadを取り出して昨日の宮田の指示を確認する。
(できる限り上半身は前に倒して、後ろに伸ばした両腕は頭よりさらに高く、指全体に力を込めてめいいっぱい指を開く――)
指示を頭の中に叩き込んで、再度跳躍してみる。
「あ…………」
そこで致命的なことに気づき、ヴィヴィは困った顔をした。
ジャンプの時に上半身は前に倒しているので、自分では鏡でジャンプを確認できないのだ。
(う〜ん、たぶん出来てるとは思うのだけど)
誰かに撮影してもらおうかと考えたとき、防音室の扉が開いた。
「ヴィヴィ……ここにいたの。そろそろリンク行く時間――」
顔を覗かせてそう伝えるクリスの傍に駆け寄り、ヴィヴィはその手にiPadを強引に押し付けた。
「撮ってっ!」
「え?」
「いいから撮って!」
勢いに圧(お)されて頷いたクリスはiPadを受け取ると、ヴィヴィの傍により撮影を始める。
音楽を鳴らすと、ヴィヴィはSPの頭から床の上で再現していく。
グラン・パ・ドゥ・シャを飛んで最後まで踊りきると、息を弾ませてクリスのほうを振り向いた。
「撮れた? ……クリス?」
「……凄い」
「え?」
「一日でこんなに変わるなんて……昨日までとは全然違うものになってる」
いつもは言葉少ないクリスが、驚いた顔でそう呟いた。
その返事にヴィヴィも自分の踊りに興味が湧き、録画を見ようとiPadに手を伸ばしたがその腕をクリスに掴まれた。
ずるずると防音室の出口まで引っ張られる。
「え? 何?」
「だから、リンクに行く時間……」
有無を言わさずリンクへ急ごうとするクリスに、ヴィヴィは「え〜、もうちょっと!」と訴えてみたがそれが聞き入れられることはなかった。