8章-3
キングサイズのベッドの真ん中に陣取ると、コミックに視線を落とす。
「禁断の果実――ねえ……?」
旧約聖書のアダムとイブから、タイトルを取ったのだろうか――。
前の3冊はタイトルから内容が推測できたのだが、今回のはよく判らない。
目次を見てみると、数話に渡ったオムニバスの様だった。
まずはお決まりの、『生徒と教師の秘密の恋愛』
『婚約者のいる男性を愛してしまった女性の悲恋』
『お嬢様と執事の禁断の主従愛』
(え――っ!? 執事が仕えるお嬢様に、手を出してどうするの? 首になっちゃうじゃない……)
うちの執事達は絶対そんな事しないだろう、とヴィヴィは確信しながらページを繰る。
そして、『血の繋がりのない義理の父と娘の背徳愛』
その内容に、ヴィヴィは少なからずショックを受けた。
血が繋がっていないとはいえ、この話の義父と娘は数年一緒に暮らしている「家族」なのに、男女の関係に至っている。
あれこれ考えながら読んでいるせいで、少しずつヴィヴィの速読のスピードが落ちていく。
ちらりと時計を確認すると、もうすぐ1時を回るころだった。
コミックに視線を戻すも、あと30ページは残っており。
(明日にしようかな? カレンには悪いけれど――)
あと1話分がどんな内容なのか、ちらりと見たヴィヴィは、言葉を失った。
「……え……、そんな……、どう、して……?」
知らず知らず、零れる声とコミックを持つ華奢な指が震える。
それは『血の繋がった兄妹の近親相姦』だった。
小さな頃から大事にしてきた身体の弱い妹が、ある日 同級生の男子と恋に落ちる。
自分だけのものと思っていた妹――初美を、他の男に奪われるくらいなら、
と嫉妬した兄が妹を襲い、拘束した上で強姦した。
信頼していた兄からの手酷い裏切りに、ショックを受けて塞ぎ込んでいた妹のところに、彼氏がお見舞いに来る。
そして、キスをされそうになった時、妹の頭の中には兄のことがよぎり、
結局、キスを拒んだ妹は、彼氏に別れを告げてしまう。
『どうしてっ!? どうして、こんなことしたの――っ!』
泣き叫び、兄に辛く当たる妹。
『初美…………』
贖罪として、何も妹に言い返さない兄。
『お兄ちゃんが私を抱かなければ! そうすれば、こんな気持ち、気付く筈、無かったのに――っ!』
『…………初美?』
訝しげに見つめる兄に、妹はとうとう本音を口に出してしまう。
『あの日から、お兄ちゃんの事しか考えられないのっ! 夢に……、夢にまで出てきて、私の中に――っ』
ぼろぼろと涙を零す妹を、兄はただ驚嘆し見つめていた。
『初めはショックばかりで、嫌、だったの……。でもお兄ちゃんが必死に、私を求めている顔を見ちゃったら、どんどん、どんどん心の中に入ってきちゃって――っ!!』
その言葉が言い終わらぬ内に、妹は兄の胸の中に抱かれていた。
『お兄ちゃん……、私のこと抱いて? いっぱい愛して? もう誰も私の心に入らないように、お兄ちゃんだけでいっぱいにしてっ!』
そして、コミックのラスト。
2人はセックスをして終わっていた。
紛れもなく実の兄妹は、色んな体位で繋がっていた。
結局、最後まで読んでしまったヴィヴィは、ぱたんと音を立ててコミックを閉じた。
信じられなかった。
“近親相姦は罪” ではなかったのか?
血の繋がった実の兄妹が恋に落ちることなど、あるのだろうか?
「………………」
(お兄ちゃん、と……?)
あの日見た光景が、脳裏によぎる。
女の膣に深々と突き立てられ、何度も出し入れされる匠海の欲望。
良いところを重点的に擦りあげられて、いやらしい蜜を滴らせる女の躰は、
何故か抜けるほど白く、そしてあまりにも華奢だ。
満足そうに兄が見つめる その視線の先にあるのは、
黄金色の髪をふり乱した――自分(ヴィヴィ)。
「あ、あぁ……お兄ちゃっ んんっ …………あ、ダメ! あぁン」
匠海のものを受け入れて善がり狂うヴィヴィは、必死で兄に縋り付くが、
あまりに激しい責めに、意識をやる寸前で。
「ああ、ヴィヴィ。いいよっ すごい……っ 締ま……るっ」
びくびくと胎内で脈打つ匠海を、きゅぅうう と締め上げてしまう。
「あぁッ お、おにぃちゃ――っ!!」