7章-1
女性の声が聞こえた途端、ヴィヴィは左側に位置する匠海の部屋へと続く、大きな扉を振り返った。
先程は気付かなかったが、2cm程開いていたらしい。
白石で造られたマントルピースの上の時計を確認すると、もうすぐ昼の1時を回ろうとしていた。
(あれ? お兄ちゃん大学は――? っていうか……誰さっ!
お兄ちゃんがガールフレンドを家に連れてくるなんて、今までなかったのにっ!!)
ヴィヴィは自分が熱を出している事などすっかり忘れ、まだ声しか知らない兄のガールフレンドに、焼きもちを焼く。
すぐにでも匠海達の間に割り込み、「私のお兄ちゃん取らないで!」と妹として正当な主張――ただの我儘――をしようとしたが、
扉に伸ばした自分の腕を見て、はたと我に返った。
(ナイトウェアだった……ぐすん)
ヴィヴィは世間知らずだが、淑女として厳しく、そして大切に育てられた『箱入り娘』だった。
さすがに夜着で人様の前に出るという、はしたない事は出来ないと思いとどまる。
せめてどんな女性なのか確認してやろうと、扉の隙間からそっと中を覗き込んだ。
細長い視界の先、匠海のリビングに備え付けの黒革のソファーに座る2人がいた。
もちろん、その女性にヴィヴィは見覚えはない。
日本女性特有の、シュッとした涼しげな顔立ちだが唇は少し厚く、ぽってりとして肉感的。
品が悪くならない程度に明るく染められた髪は、綺麗に巻かれて肩の上に乗っている。
そして、その下の胸は豊満だった。
6人は座れるL字型のソファーに、大人っぽく脚を組んで座った女性に、隣に座っていた匠海が長い腕を伸ばして触れる。
綺麗な髪から顎のラインを伝い、首元へ。
彼女の顎下に指を添えると、そっと上に持ち上げて、互いの瞳を見つめ合う。
「ふふ……」
女性がふと笑みを零した。
「どうしました?」
匠海が敬語で返す。
そういえば、女性は纏っている雰囲気や服装から、匠海よりは年上に見えた。
「ええ。私、匠海って長男だし、あんまり他人に甘えたりしないのかと思ってたの。大学生とは思えないくらい、大人だし。けれど、こんなに――」
「こんなに?」
「ふふ、くっつき虫だったなんて」
そんな風に揶揄された匠海は、片眉を上げて少し困った様な表情を浮かべたが、
その指先は、女性の下唇を執拗に辿っていて。
「失望、させましたか?」
「いいえ、そんな匠海も可愛くて好きよ。でもそういう姿だけは、私以外には見せないでね――」
女性の少し引っかかるような言い方に、匠海は肩を竦めてみせる。
「俺には、麻美さんだけですよ」
「また――。知ってるのよ、貴方が結構遊んでるってことは」
麻美と呼ばれた女性は、悪戯っぽく匠海を睨んだ。
「困りましたね。でも――」
「でも?」
「麻美さんが、俺にだけイイ顔見せてくれるなら、考えますよ」
「バカ……」
そう囁いた匠海はソファーに麻美を押し倒し、
家族には今迄に見せた事の無い、獲物を捕らえた肉食獣の如き、餓えた瞳を麻美に向ける。
一方の麻美は「ここじゃダメ」と、匠海の広い胸を下から押し返すが。
「大丈夫です。弟達はまだ学校だし、誰もこの部屋には通さないように、言ってあります」
「で、でも、こんな明るいうちから――」
「そんな事を言いながら――ほら、ここはもう準備万端なのでは――?」
匠海はくつりと嗤うと、麻美のミニスカートの裾から手を忍ばせ。
その指が太ももを触りながら、どんどんと奥に入って行き、脚の付け根の辺りで止まった。
(んな゛……――っ!? お、お兄ちゃんったらっ どこ触って……?)
己の心臓がどくりと啼く音にさえ、驚くも。
何故か目を逸らせず、一部始終をただ見せられていたヴィヴィが、驚嘆する。
「んぁっ!」
女性が発した声音は常とは違い。
ヴィヴィは「もしかしてそんな所を触られて痛いのでは?」と少し心配になり、ちょっとだけ身を乗り出した。
「いつからこんなに濡らしていたのです? そんなに俺が欲しかった?」
匠海が手を動かすと、その言葉通り、くちゅりという水音がして。
(え……? な、なんでそんなところが、濡れるの?)
「あっ ぁん! だ、だって、匠海……休みが合わなくて、中々会えなかったしっ」
「凄いですね……、まだどこも触っていないのに、潤みきって……。俺の指、どんどん入っていきますよ?」
(え? え……? 何を、しているの――?)