7章-6
「だから、分からないのは『婚前交渉』だよ。なんで子供を作る予定や、その必要がないのに、性交渉を持つの? そんな事して、いきなり赤ちゃん出来ちゃったら、困らない?」
「なんでって、そりゃあ……」
「…………?」
何故か頬を赤く染め、言いにくそうなカレンに、ヴィヴィは黙って先を促す。
「……気持ちいいから、よ」
「気持ち、いい――? 何が?」
「だからっ! あれをあそこに入れられると、気持ちいいの!」
「……――っ!? えっ? そうなの――っ!?」
ヴィヴィには想像も付かなかった事だったのか。
大きな灰色の瞳が零れ落ちそうな程、大きく見開かれていた。
「え……だって、身体の中に入れられるんだよ? 痛そうにしか、見えないんだけど?」
至極もっともな意見を言うヴィヴィに、カレンは頷く。
「だから最初は痛いんだって。私はまだだから、知らないけど……」
最後のほうはもごもごと言うカレンは、なんだか悔しそうだ。
「へえぇ……」
(世の中にはまだ知らない事が、いっぱいあるんだな……)
能天気な声を発したヴィヴィに、カレンが疑問に思ったことを口にする。
「っていうか、ヴィヴィ……。ドラマや映画でそういうシーン、見たりしたことないの?」
「ん……? ……あっ! そっか!」
その問いに、ヴィヴィは合点がいったように、両手を叩いた。
「な、何……?」
「あのね、うちは皆で映画鑑賞、よくやるんだけど、たまにダッドやマムに『はい、キッズは見ちゃダメ〜』って目隠しされるの。もしかしてその時にセックス映像が流れてたのかも。そうだ、お兄ちゃんと見るときは、お兄ちゃんに目隠しされちゃうし!」
「へ、へえ……、さすが箱入り娘……」
自分から投げかけた質問なのに、その返答にカレンはちょっとひいているようだった。
「コミックとかは?」
「コミック? 漫画読んだことない」
「………………」
沈黙したカレンは、やがて深々と息を吐くと、おもむろにヴィヴィの細い肩に両手を乗せた。
「分かった。君のあまりに無知すぎる性知識を養うため、私のコミックを貸してあげよう。その代り――」
「その代り?」
「絶対ぜったいっ、クリスに見つからないでね――っ!?」
「クリスに? うん、分かった」
ヴィヴィは不思議そうに、凄んでくる親友の顔を覗き込んだが。
たが心の中は「わ〜、初めて漫画読む!」と浮き足立っていて、
カレンの不自然な様子に、気付く事は無かったのだった。