1章-4
そこで画面が切り替わり、リンクの中央で俯いてポーズをとる少年が映し出される。
音楽が鳴り始めゆっくりと上げられた顔は、ヴィヴィとよく似た整ったそれ。
『男子シングルの金メダリストは、クリス篠宮さん――なんとヴィクトリアさんの双子のお兄さん。
二卵性双生児ですが、よく似ていますね。
彼の武器も妹さんと同じく、高い柔軟性とジャンプ力。
今まで出場したジュニアの大会全てで、4回転を成功させている素晴らしい才能の持ち主です』
涼しい顔をして、やすやすと4回転ループを飛ぶクリスが映し出され、
その後は君が代の流れる表彰式の映像が流れた。
『そこでFキャスではお2人の素顔に迫るべく、都内のホームリンクにお邪魔しました――こんにちは』
『『こんにちは、初めまして』』
凛々しい笑顔のヴィヴィと、少し表情の硬いクリスがハモリながら、練習着で女子アナのほうへと滑ってくる。
『わあ、本当にお人形さんの様なお2人ですね! 今日は色々とお話を、聞かせて下さいね』
その後数分、それぞれにインタビューをする映像が流れ、最後は2人で、
『『3月の世界Jr、応援してください!』』
と元気よく発し、双子の特集は終わった。
リモコンでテレビの電源をオフにして匠海を振り返ると、
兄は口元に大きな掌を当て、驚いた表情を浮かべていた。
「ヴィヴィ、頭ボサボサだったね〜?」
そうおどけてみせたヴィヴィに、匠海は無言で首を振る。
「いや、ヴィヴィもクリスも可愛かったし、しっかり受け答えしてた……。っていうか、びっくりした……。なんかお前達が、いきなり遠くの人になったみたいで、なんというか――」
そこで言葉を切った匠海の顔を、ヴィヴィは下から覗き込む。
「淋しい――?」
「う〜ん、ちょっとね」
眉尻を下げてそう言った兄を目にして、ヴィヴィの胸はキューンと疼いた。
(……〜〜っ! お兄ちゃん、可愛い!)
その気持ちのまま、匠海の広い胸に飛び込む。
「ヴィヴィはどこにも行かないよ? ずぅ〜〜っとお兄ちゃんと、一緒にいるんだもん♡」
まだ13歳で、スケート以外を学校や家でしか、ほとんど過ごした事の無いヴィヴィは、
異性には全く興味の無いお子様だった。
先程のテレビの中での、しっかりした態度とは全く違う、
子供っぽく甘えたなヴィヴィを見て、匠海は深い溜め息をついた。
「まったくみんな、騙されてるよ……。ヴィヴィはこんなに、甘えん坊なのにな?」
そう言って妹の頭を、ポンポンと撫でた匠海の胸の中で、ヴィヴィは小さくピンク色の舌を出したのだが、兄は気づく事は無く。
(お兄ちゃんの前だけだもん、ヴィヴィが甘えんぼになるのは――)
ヴィヴィは兄の香りを胸一杯に吸い込むと、幸福そうな表情で瞳を閉じた。