ジェニファー語り(2)-1
――わたしの名はジェニファー。スガーニーの軍人にして、現在はナディーカ姫さまの護衛隊長だ。
出身は、フカリス星である。
だが、あの頃のフカリス中央政府の軟弱で近視眼の政権は、心底愚かだったと思う。
政府だけでなく、あの統一の遅れた田舎星自体、わたしは帰る気にはなれない。各政府間の馬鹿げた関税のかけあいがエスカレートし、生活必需品ですら他星からの輸入品のほうが安かった。経済面においては、かつては木星圏一だった時期もあった。だが、産業基盤はずっと強固であるにも関わらず、トゥーロパに追い抜かれ、後塵を拝することになった。フカリス中央政府の現政権が、わがスガーニーによる連合政策に追随したことは賢明な選択だったと、これも心底思っている。
この星の生え抜きでないわたしに、スガーニー国軍は教育を受けさせてくれ、ナディーカさまは現在の地位をお与えくだされた。感謝している。
わたしはスガーニー軍人として、今回の一連の事案の記録を取ろうと思う。
慣れない筆はご容赦願いたい。文体や文章の修正には、喜んで応じるつもりである。
ことの発端は、およそ一年前、わがスガーニーによる木星圏連合計画の発表時にまでさかのぼる。
木星圏の経済と軍事を一体化し、その全域を公平に発展させようという、われわれスガーニーのこの構想の正式発表にあたり、トゥーロパ、フカリス、その他小衛星国家、各自治体が賛同するなかで、オイオの新政権が強硬に反対してきたのだ。
(前政権は、比較的わがほうに協力的だったが‥‥)
そしてそれを見て、まだわがナディーカさまのご威光が及ばぬ一部の小衛星国家、衛星上の独立領や宇宙空間に浮かぶ設備のやはり独立的な自治体等が、連合計画そのものに反対し始める由々しき事態となり、木星圏には不穏な空気が流れることになった。
遺憾な話であるが、木星圏でもっとも発展し統一が成されているこのスガーニー星においてすら、いまだわれわれ中央政府下にない小独立領・自治体の類が、極々わずかながら存在する。他星においては、そのような例がもっと多い。これが、木星圏の実情なのだ。
「このように複雑かつ非効率な体制を改善することこそ改革の理由。そのための連合なのです」
ナディーカさまのお言葉に、わたしをはじめ軍、政財界の大勢が頷いたものだ。われわれがこの計画を練り上げるには、かなりの時間と労力とがかかっていた。
「惰眠を貪り、己の足元しか見ようとせぬ危機感の乏しい輩には、しょせん現実は見えず、
制裁が必要ではないでしょうか、という意味のことをわたしは申し上げた。軍事的にという意味だった。つまり、武力制裁。
しかし、わが軍も度重なる戦を経てきて、そう余裕があるわけではない。
「オイオ軍など、教育や訓練もままならぬ烏合の衆です」
わたしはそうも言ったが、先の第二次トゥーロパ戦役以来、わがスガーニーも本格的な戦争に挑むにはいささか体力不足であること、またオイオには
向こうはオイオ一国のことを考えればいいが、こちらは木星圏全体を背負わねばならなかった。長期戦ともなれば、小衛星国家群はおろか、フカリスやトゥーロパにまで動揺が走りかねない。それもわかっていた。
結局、オイオへの武力制裁は成されることはなく、経済的なそれに留められたのだが、それに対し、オイオの政権から、
すなわち、代表の女たちのみだらさで、平和裏に民主的に解決をはかろうでは、と。
これに、ナディーカさまは乗ったのだった。財界、国民議会、そして国軍内でも、反対する意見が多かった。しかし、オイオへの経済制裁は思ったほど成果をあげられておらず、今後も見通しは暗いという実情もあった。財界からも緩和を求める声が出てきていた。
そしてまた、ナディーカさまには自信がおありだったようだ。あのリリアと、そしてまた、調教士の召還が、その根拠だった。あの調教士を召還させることに成功し、リリア調教の道筋が立った時点で、ナディーカさまの強い意志の元、わがスガーニー政府はオイオの提案を受諾するに至ったのだった。たしかに、武力制裁や経済制裁に較べれば格段にこちらの負担が少ないという利点はあり、これで財界と国民議会を味方につけ、強硬策を唱える国軍の一部の意見を封じたのだった。ナディーカさまはたしかに「政治家」であった。