め-4
繁華街を抜けるとき、特設のチョコレート売り場を見て
「ああ、バレンタインも近いのか」
と思いだす。
先週会った時、冗談半分にチョコを欲しいと言われたんだっけ。
ほんの数日前なのに。
遠い昔の様で、切なくなるけど。
私の勝手な感情だ。
その証拠に今週は1回も石島さんから電話もメールもない。
小さいチョコを1箱買って
手紙とともにマンションのポストに入れた。
カンッと小さく音を立てたそれは
きっと衝撃で角が潰れたかもしれない。
ごめんね。綺麗な状態で渡す事が出来なくて。
ごめんね。綺麗に終わりを告げられなくて。
そう呟いて、私はマンションから離れた。
この年まで仕事を頑張ってきて。
石島さんはそのご褒美だと思う事にする。
もともと接点なんかなかったはずの人だ。
毎年の新年会でも、めったに話したことなんかない。
たった数日の関係だったけど。
楽しかったな。
そう思うと、もらうはずじゃなかったプレゼントをもらったようで。
うん。良かった。
何もない方が良かったとは決して思わない。
それだけは胸を張って言えるよね。