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籠鳥 〜溺愛〜
【女性向け 官能小説】

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25章-1



 翌日の夕方になっても、美冬の足取りは掴めなかった。

 興信所に偽名を使っている可能性があると伝えたところ、見つかる可能性が格段に低くなったという返事が返ってきた。

 鏡哉は昨日の夜から浴びるように酒を飲んでいたが、全く酔えなかったし眠ることもできなかった。

 美冬は今頃何処にいて、本当に安全なのだろうかという思いで胸の中がいっぱいになる。

 休学扱いになっていた高校は退学していた。

 転校先についてどんなに粘っても、個人情報だからと教えてもらえなかった。

 興信所も高校が一番の情報筋だととり、金銭をチラつかせたらしいが「自分たちも転校先を知らされていない」という情報しか得られなかった。

 結局今日一日で分かったことはこれだけだった。

 進展のなさに苛立ちが募る。

 こうしている間にも、美冬はどんどん自分から離れているかもしれないのに。

 夕方、秘書の村上に「明日も休む」との連絡を入れた。

 村上は明日は週末の役員会議があるから無理だとかなんとか言ってきたが、通話を切ってやったらもうかかってくることはなかった。

 夜の闇が迫ってくる。

 9月だというのに夕立が窓を濡らしていた。

 美冬はちゃんと屋内でこの雨をしのいでいるのだろうか。

 夜はさすがに興信所も調査をしてくれない。

 また無為な時間が過ぎるのを夜通し我慢するしかないのかと思うと、鏡哉は気が狂いそうだった。

 雨が上がり、長かった夜が明けていく。

 鏡哉はガラス戸に凭れ掛かり、酒を飲みながらそれを見ていた。

 美冬の体温が恋しい。

 あの細い体を抱きしめたい。

 そう恋しく思う一方で、美冬に対する憎しみが溢れ出す。

 見つけたらもう二度と離さない。

 永遠に自分のだけのものにする――例えそれが美冬の将来を奪うことになろうとも。





 気づかないだけで、

 自分は少しおかしくなっているのかもしれない。





 数時間ごとに、興信所から経過の連絡が来る。

 捜索は難航しているとのことだった。

 東京にいるのか県外に出たのかさえもわからない。

 飛行機の搭乗名簿も警察でない限り確認することは出来なかった。

 新幹線に至っては、監視カメラでも見ない限り乗車したか確認することも出来ない。

 上がってくる経過は絶望的なものばかりだった。

 刻々と時間が過ぎていく。

 鏡哉は東京中の高校に美冬という名の転校生がいないかを電話して回ったが、帰ってきた答えはNOか個人情報なので答えられられないとの回答だった。

 ガラス戸からは西日が差しこみ始める。

 また何もできない夜が来るのかと思うと、血の気が引く思いがした。

 縋るようにブランデーに手を伸ばした時、リビングの扉が開かれた。

 その音に鏡哉がゆっくりと振り返る。

 そこには高柳が立っていた。

「………」

 どうやって入ってきたんだとぼんやりした頭の隅で思ったが、どうでもよかった。    鏡哉はふらつく頭を振ると、高柳から視線を外す。

「……お迎えに上がりました、社長」

 高柳から静かな声がこぼれる。

 その声があまりに落ち着き払っていて、気が付くと鏡哉は高柳の顔を殴っていた。

 長身で体格の良い高柳の体はぐらりと傾くが、倒れることはなかった。

「お前のせいだっ! お前のせいで美冬は――っ!」

 自分の中のむしゃくしゃした気持ちをそのまま高柳にぶつけていた。

 体が怒りからがくがくと震える。  

 脳が沸騰しそうなほど高柳に怒りを感じていた。

 もう一発殴ろうと右腕を振り上げた時、自分の右頬が熱く感じた。

 眼鏡が吹き飛び壁にぶつかる。

 どさりと倒れた鏡哉は、徐々に頬の痛みを感じ始めた。

 口内を切ったのか、血の味が滲んでくる。

「お前――っ」

 脳震盪を起こしくらくらする頭を振り、立ち上がろうとした鏡哉の喉元を高柳が掴んで壁に押し返す。

「ったく、26にもなっていつまでガキなんだ」

 秘書という仮面を取った高柳はひどく粗野だった。

 呆れ果てた顔で鏡哉を見下ろすと、掴んでいたその手を放す。

「………っ」

「俺を殴って気が済むなら、いくらでも殴ればいい」

 下から睨みつけてくる鏡哉に高柳は続ける。

「だが俺を倒しても、美冬ちゃんは帰ってこないが」



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