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籠鳥 〜溺愛〜
【女性向け 官能小説】

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24章-1


 その日の夜。

 鏡哉は社用車のリムジンの後部座先に身を沈めていた。

 思っていたよりも仕事が長引き、外は暗闇に包まれていた。

「できる限り急いでくれ」

 高柳の後に秘書となった村上にそう指示をする。

「かしこまりました」

 暗い車内で鏡哉の口元が緩む。

 瞳を閉じると直ぐに、昨日の美冬の可愛い姿が思い起こされる。

 自分の上で愛らしく啼いてくれた美冬。

 こんなことを考えていると彼女に知られたら、頬を膨らまして怒られるだろう。

 新婚ごっこと言って抱きついてきた美冬。

 鏡哉は美冬との結婚に思いを馳せる。

 彼女は今17歳。

 法律上は結婚できる年だが、社会的立場にある鏡哉にはあまりにも若すぎた。

 たまに不安そうな顔を見せる美冬を鏡哉は結婚という形で安心させてやりたかったが、せめて大学に入学してからでないと周りの了解が得られないだろう。

 そんなことを考えていると、マンションのエントランスにリムジンが滑り込んだ。

「ご苦労」と村上と運転手に声を掛けると、鏡哉は車から降り部屋へと向かった。

 鏡哉は部屋へ戻るまでのこの時間が好きだった。

 仕事を終えた達成感と、これから迎えてくれる美冬がどんな笑顔で笑ってくれるのかという期待で年甲斐もなく胸が弾む。

 部屋の玄関に辿り着き鍵を開けて中に入ろうとし、部屋の暗さに一瞬止まった。

(寝ているのか?)

 まだそんな時間ではなかったが、ついうとうとして電気もつけずにいるのかもしれない。

 廊下の電気を付けリビングに入る。

 そこの電気をつけても美冬はいなかった。

 美冬の部屋にも、鏡哉の部屋にもいない。

「………」

 シャツの背中の中に、嫌な汗が伝う。

 以前美冬が部屋を出て行った時も、こんな感じだった。

 まったく人気の感じられない、静まり返った広すぎる部屋。

 ゆっくりと視線をリビングのローテーブルへと移す。

 そこには案の定というか、白い封筒が置かれていた。

 深いため息がその形のいい唇から零れる。

(また家出か――)

 どさりと音を立ててソファーに座りこむ。

 苛々と神経が逆立っていく。

 美冬のことを好きだ、愛している。

 しかし『こういう事』をする彼女は好きになれない。

 また自分の中で何かを溜め込んで、家出という暴挙に出てしまったのだろう。

 今回は全く心当たりがなかった。

 今日の朝の美冬におかしいところはなかったし、可愛く行ってきますのキスまで強請ったではないか。

 手を伸ばして封筒を取る。

 鍵を思わせる重みが掌に伝わる。

 中には鍵と一枚の便箋が入っていた。

 鏡哉は億劫そうに便箋を開く。



 『 私は貴方の鳥籠の中で、美しく 囀(さえず)る鳥にはなれません。 』    



 その一文だけだった。  

 鏡哉は便箋をくしゃりと握りつぶす。

「くそっ」

 口汚い言葉が唇から洩れる。

 胸元から携帯電話を取り出すと、美冬が以前契約したアパートを管理している不動産会社に電話をする。

 しかし美冬の名前でも高柳の名前でも、契約をしていないことしかわからなかった。

 高校に電話をしてみるが、職員がすべて帰ってしまったのか繋がらなかった。

(どうせ高柳が絡んでいるのだろう)

 鏡哉は秘書を解任して以来、連絡を取っていなかった高柳の番号を出し通話ボタンを押す。

 すぐに電話に出た高柳に、開口一番「美冬をどこへやった」と問い詰めた。

『……それを私が喋ると思いますか?』

 その答えからやはり高柳が絡んでいると知った鏡哉は、口を開く。

「言わなければ、今度こそお前をクビにする」

『ふ……無理ですよ』

「なに?」

 怒気をはらんだ声を漏らした鏡哉に、高柳は淡々とした口調で返す。

『この件には取締役が絡んでいます』

 その言葉に鏡哉は息を飲んだ。

「…… 親父(おやじ)が?」

『俺が「社長が未成年の美冬ちゃんを軟禁している」と取締役に伝えたんです』

 さらりとそう言った高柳に、鏡哉の奥歯がぎりりと鳴る。

「お前、こんなことをしてただで済むと思うのか!」

『どうでしょうね。ただ、村上にも取締役の息がかかっています。あいつを使おうとしても無駄ですよ』

「………っ」

『社長……』

 黙り込んだ鏡哉に、高柳の静かな声が届く。

『美冬ちゃんの意思、尊重してあげてください。あの子は――』

 言いかけた高柳を鏡哉は通話を切って遮った。

 


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