調教士として（５）-1
あなたたちは再び謁見の間に戻り、そこで別れた。リリアの姿はもうなく、そして、とうとう最後まで、あの黒調教士は出てこなかった。まあ正直、嫌そうな男だから、会いたくはなく、助かったと言えば言えるのだが‥‥。あなたに代わって、ルリアがそのことを尋ねると、
「彼はあいにく体調を崩しておりまして、大事をとり、本日は控えさせていただきました」
と、ナディーカお姫さまの涼しい答が返ってきた。今日のところは、あなたはそれで納得した。まあどうせ、
それにしても、あのナディーカちゃんは、美少女だった。胸も‥‥。そして、あのジェニファーという女も、ちょっと、いやかなり怖そうだが、悪くはない。だが、
（くそっ、不公平だ‥‥。――ようし、こうなったら、あのリリア・ザ・パーフェクトの魔乳に、あのふたり分も足した欲望をありったけブチ込んでやる‥‥！）
居室で、あなたは怒りと決意をたぎらせていた。与えられたその居室は王宮内の１Ｇエリアの四人部屋で、調度品等はそれなりのものだったが、ゆっくり旅行気分に浸る気にはなれていなかった。それは、三人も同じようだった。ちなみに、標準重力エリアからこのエリアへは、オイオのような重力変更室ではなく、廊下を歩いているうちに自然に体感するようになった。言うならば、その廊下全体が変更室だったのだ。こういうのは、やはり技術力の違いなのだろうか‥‥。
と、そのとき急に、思い悩むルリアの顔の顔がどアップになった。甘い吐息が頬に、おっぱいの先が胸に、感じられた。
「な、な、なんだよ‥‥？」
「――しっ。盗聴装置があるかもしれんだろう‥‥」
ルリアはあなたをぐいと引き寄せ、声を洩らさないためにはそうするのが手っ取り早いと言わんばかりに、宇宙艇のときのように、その豊かな胸にあなたの顔を埋めさせた。今度は空間服よりも生地が薄い。当然、おっぱいの触感もよりやわらかかったが、彼女の腕の力はあのときより強く、あなたをがっちりと捕らえていた。オイオで聞かされていた注意を、あなたは忘れていた。スガーニーに、われわれの常識は通じない。おそらく、おまえが元いた環境の常識も――という。
「む、むぐぐ‥‥。うぁわ、わかった‥‥」
あなたが同意するとルリアは力を緩めてくれ、やわらかおっぱいクッションから、あなたはわずかに顔を離すことができた。
「そう、それくらいで‥‥。――おかしいと思わないか？ その、よくはわからんが、普通、男というものは、こういうとき、あらかじめ見ておきたくなるのだろう？」
黒調教士の話だった。あいつがルリアたちを、ということだ。確かに――。ああいう場には、少々の体調不良くらい、押して出て来るだろう。しかし、それがなかった。
ということは、そこには、彼、黒調教士以外の何者かの意志が働いていると考えるのが、自然だ。強制力を持つ意志が。そのようなものを発揮できるのは――。
（あの、ナディーカちゃんか‥‥）
あのナディーカお姫さまの積極的な様子は、他の誰かに強要させられているようなものでは到底なかった。あの瞳の輝きは、彼女自身の強い意志を示していた。このコンジャンクションを持ちかけたのはオイオだが、そう追い込み、また最大限に利用しようとしているのは、彼女自身なのだ。
そして、あちら側では彼女の権力と命令が絶対で、こちらが思うほど、つまりオイオにおけるあなたほどの自由を、あの黒調教士は与えられておらず、彼女の単なる駒にすぎないのだろうか。
そう考えると少し気も楽になったが、今度は、あの年端の行かないお嬢ちゃんに腹が立ってきた。
（見てろよ――。だが、そのためには‥‥）
あなたは、勝たなくてはならないのだ‥‥！
――ひそひそ話はそれで終わり、今度は、もっと重大かつ深刻な問題、つまり、ルリアだけでなく、ジャニスさん、ミドリも参加という事態について、話し合わねばならなかった。ふたりの調教不足は明らかだった。特にミドリの調教期間の途中からは、ルリアひとりの出場を想定して準備を進めてきたのだ。
そして、あなたときたら、鍛錬と呼べるようなことは‥‥。
（――まったく、一切、きれいに、なんっにもっ‥‥――して‥‥いないっ！）
向こうは、最初からあのリリアひとりに的を絞って調教し、明々後日に合わせて万全の調整を施しているだろう。あなたたちの、そしてあなたの、一大危機であった。
「大丈夫ですか、調教士さま。あの娘の魔乳が、ずいぶん気になっていたようですけれど‥‥」
ジャニスさんが眉根を寄せて言う。あなたを軽く睨んでいるようだった。むむ‥‥。