調教士として(4)-1
説明は、さらに続いた。「プレーヤー」同様、攻め役の人間の脳波も検知され数値化されるうえ、公表、つまり放映される。そして同じく、本人およびチームメイトは、コンジャンクション終了までその数値や視聴者の投票傾向を知ることができる。嘘発見機的機能を装置が有するのも同じ。
(つまり、あのリリア・ミアヘレナに――)
あなたが気をやるとスガーニー側に加算され、さらに視聴者の投票基準となるのだ。
もちろん、逆も然り。あの黒調教士がルリアや、ミドリやジャニスさんに気をやれば、それはわがオイオ側のポイントとして加算され、放映されて投票の判断基準となる。
あのお姫さまやジェニファーという女軍人も、攻め役として参加するのだから同じ条件が課されるが、あなたは彼女たちにはライバル意識をあまり感じなかった。
(それよりも、黒調教士だ‥‥)
あなたはまだ見ぬ黒調教士に、敵意を燃やしていた。
コンジャンクションのスケジュールは、オイオで聞かされた通り、二日を空けて
「パンティ一枚の姿ですよ? よろしいですね。印は口にくわえて‥‥」
ナディーカ姫が言ったのは、敗者側の「プレーヤー」の一名がなる代表の格好だ。
両手を後ろ手に縛ったその屈辱的な格好で書類の卓まで歩き、押印しろというのだった。その模様も木星圏中に放映され、全有権者に勝敗をはっきりとわからせる、と。
その代表の一名は三人の女のうち誰でもよいということだったが、コンジャンクション前に双方選んでおくこと、ということだった。ルリアの性格からして、こちらは自分がやると言い出すだろうと、あなたは思った。その様を想像しているのか、ミドリが横でごくりと息を飲んだ。
あなたとしては、ルリアのその姿は見てみたい気もするが‥‥。
(いやいやいや。そんなことを考えてる場合じゃないだろう、いまは)
と気を引き締めた。
(――敗北したときに自分がどうなるのか、考えてみろ‥‥!)
あなたが、ごくりと息を飲む番だった。
その敗北側調教士の最終的な処遇だが、現時点では未定、ということだった。この国璽押印式の後、三十日以内に勝者が決められるということだった。そう告げるジェニファーという女軍人は不敵な笑みを浮かべており、その笑いは、例の刑が、
(有り得るかも‥‥)
とあなたに思わせ、戦慄と悪寒を覚えさせるに充分な凄味だった。これはオイオで聞いていたが、敗北側の女たちは奴隷とされるという説明も、ジェニファーは付け加えた。最短は、その期間の間。これは、勝者側の意思に関わらず、義務ということだった。最長は‥‥法律上の問題が各星で異なるから一概には言えないが、原則的には勝者側が望む限り、つまり、望むなら終身奴隷も可能、ということだった。
――さて、コンジャンクションはそれで終わりとなるのだが、その後に、
「時間を置いて‥‥」
オイオとスガーニー、両国の軍事条約を結びましょうと、ナディーカ姫はルリアに申し出てきた。
「木星圏の平和と安定のため‥‥」
と、にこやかに付け加えて。
ナディーカ姫は、もう勝った気でいるようだった。事情に明るいとは言えないあなたにも、その「条約」というのが不平等な、軍事をスガーニーに一本化する企みだとわかった。コンジャンクションでこちらを打ちのめした後、立ち直れないうちにそこまでする気なのだ。きっとその後さらに、経済面でもいろいろ押し付けてくる気なのだろう。ミドリはきっと、反発するだろう。
(ルリアは、どう言うだろうか‥‥)
あなたは思った。そしてあなたたちオイオからの一行は、勝敗の後に両者が国璽を押印することになる、王宮内の折衝の間という場所に案内された。廊下‥‥と言えるのかどうか、非常に高い天井をこれも非常に太い多数の柱が支える幅の広い通路を通っていった。それらの柱は華麗に装飾されており、そちらの意味合いが強いように思われた。リリアはついてこなかった。ナディーカ姫の方針なのだろう。あの子にとって、あのリリアというメイドは、そういう扱いなのだ。
折衝の間は、上はこれも高い丸天井、下には赤絨毯が敷かれていた。円形のホールで、壁面にはやはり装飾が施されていた。近寄って見たわけではないが、絵画のようなものも飾られていた。知識があるのか、ルリアはそれらを興味深そうに眺めていた。地球で言う大理石のような卓は、すでに用意されていた。卓だけでなく、オイオで見たような追尾カメラが、すでに数多くスタンバイしていた。それを大型化したようなカメラもある。きっと、物凄い解像度で映せるのだろう。ナディーカ姫はやる気満々のようだった。そして、自分たちが負ける気は、毛頭ないようだ。