調教士として(2)-1
飛行中、地球の約十一倍の直径という木星はずっと大きく見えていたが、目指すスガーニー星は、不慣れなあなたには間近にならないとわからなかった。
濃淡のコントラストは美しいと言えなくもないが、ほとんどモノクロの画像を見ているような、全体的に灰色の星だった。地球の月の写真にもあるクレーターというのが見えた。その陰鬱そうな
着陸すると、オイオの標準重力下にいたときよりも、わずかに体を軽く感じた。重力が違うのだ。そして、発展している国家だと一目でわかった。空港は規模は大きく、設備もはるかに整っており、あなたにショックを与えた。
そもそも「空港」といっても、飛び立ってきたオイオのレオニア空港は、軍が管理する、しかし閑古鳥が鳴く発着場にすぎなかった。これに対し着床したスガーニーのベルサビア空港は、他衛星への宇宙船や、ルリアが教えてくれたが調査か資源の採取かはわからないが木星本体へ出向くらしい船が並ぶ壮観なもので、実際に一隻が、入れ違いに飛び立っていくところだった。
軍用も兼ね、これはミドリが食い入るような目つきで指さしたのだが、ウプ・ウアウト級巡洋艦というのも停泊していた。とはいえ、空港自体はいちおう民間が管理する体裁を見せていた。
衛星としてのスガーニーはオイオよりも大きく、トゥーロパ(Twuropa)、フカリス(Fcallis)も含む木星の衛星のうちで、最も大きい
測ったわけではないが、首都レアンドラも、オイオのエウドシアの五倍はあろうかという大都市だった。入り口の「レアンドラ直轄市」という表示が、あなたにも読めた。星空を突き刺す摩天楼もあり、そう設計されているのか、巨大な木星と並んでいる図は、見応えがあった。見たこともない様々な交通機関が縦横に走っており、あなたたち一行も、地上と地下双方を走る高級モノレールと形容できそうなものの一般乗客不在の紋章つきの車両で、ナディーカ姫の待つ宮殿へと移動した。その間さまざまなものを見たが、どこも活気に溢れており、大規模な建築が各所で行なわれていた。あなたは、圧倒されそうだった。
アグラウラ宮というその宮殿は、レアンドラの中心部にあった。規模や華麗さはマロツィア宮とそう変わらず、不思議とオイオへの愛国心が芽生えはじめていたあなたの心を慰めた。
武器の携行は認められず、ルリアとミドリは何やら小火器を預けなければならなかった。あなたも含め、衣服の上からだが身体検査もされた。X線か、それとも他の技術を用いるのか、透視するという装置を三回も通過させられもした。
ナディーカ姫は、謁見の間という部屋で、待ち受けていた。ナディーカ・クセルクセス。小柄で華奢、縦ロールの透けるような金髪に幼ささえ残す美少女で、白を基調に華美な金の刺繍が多数入ったドレスを
(さすが、お姫さまだな‥‥)
という出で立ちだ。そのナディーカ姫の傍らにすっくと立つジェニファーという女軍人は、赤みがかった背まである金髪に、赤紫を基調とした軍服姿。金の肩章や胸飾りは、ルリアが着ているオイオ軍のそれより、よく言えば豪華、悪く言えば大袈裟なものだった。そして、ふたりの胸は、やはりそれなりに盛り上がっていた。
リリア・ミアヘレナ――あなたが相手にするであろうメイドは、その場に姿は見えなかった。黒調教士の姿も‥‥。あなたは気にはなったが、口に出しはしなかった。ジェニファーという女軍人が、まず姫さまを、次に自分を、慇懃に紹介した。ルリアが紹介する形で、こちら側も面子を紹介した。まず、あなたからだった。
「ふふふっ。オイオの調教士さん、どうぞよろしく」
あなたが挨拶すると、縦ロール金髪のナディーカ姫は、天使のような微笑を浮かべた。こんな美少女が、