13章-3
「……ごめんなさい」
くしゃりと顔を歪ませて謝る美冬に、鏡哉は小さく首を振って見せる。
「しかしそれはもういい。おかげで私は自分の気持ちに気が付けた」
美冬の腕に舌を這わす。
その動きに美冬の体がびくびくと震える様が愛おしい。
「私は君を離す気はないよ、美冬」
体重をかけて美冬に伸し掛かり、ベッドの上に彼女を縫いとめた。
「鏡哉さん! どうして――」
「どうして? 美冬は私以外をその瞳で見つめる必要はない。その美しい体で誘惑する必要もない。だから――」
「ここにずっといればいい――」
鏡哉はそう耳元でつぶやくと、美冬の首筋に舌を這わす。
「わ、私には学校も、バイトもあります!」
「バイトはする必要がないと何度も言っただろう、悪い子だ」
そう言った鏡哉は美冬の首元に軽く噛みつく。
「やっ! 痛いっ」
美冬が悲鳴を上げる。
噛みついたところは内出血を起こし、赤く染まる。
「学校はそうだな……私が勉強を見るから、大検を受ければいい」
そう断言して美冬を見下ろすと、彼女はさらに顔をくしゃくしゃにして涙を流していた。
「そんなの、駄目……」
力のない声がその細い頤(おとがい)から漏れる。
「何故?」
「……駄目なんだもの」
ぼろぼろと止めどなく零れるしょっぱい涙を鏡哉は舐めあげる。
「駄目なんかじゃない」
ひっくひっくとしゃくりあげ始めた美冬に、鏡哉は導くように言い含める。
「駄目なんかじゃないんだ、美冬」
美冬が鏡哉の瞳を見上げてくる。
まるで、鏡哉に何かを言わせようとする様な懇願する瞳で。
「私たちは愛し合っているんだ。駄目なことなんて何もない――」
その言葉は麻薬だった。
美冬はピクリと体を震わせた後、ゆっくりと瞼を閉じた。
溢れ続ける涙が小川のように流れ落ちる。
そしてほんの僅かに、しかし確実に、こくりと頷いた。
鏡哉が満足そうに微笑んで美冬の体を抱きしめる。
背中に回された美冬の腕に、もう躊躇いはなかった。