虹美ヶ丘の家-5
「足……って?」
思わず聞き返したわたしに、もうすっかり毒を吐きだしてすっきりした顔の由紀が微笑みかけてくる。
「大会の日、あの子のダンスシューズに割れたガラスの欠片を仕込んでおいたの。履き替える時間もなかったから、そのまま踊ってたわ」
「由紀ちゃん……」
「いいでしょ? そのくらい。ハンデみたいなものよ」
あはは、と手を叩いて茜が笑う。
「しばらくあの子、右足だけ引きずってたわよね。いい気味! 実はわたしもね、ちょっとやっちゃったんだよね」
展示会に出品するための絵。
美穂が完成させたのを知って、盗んで燃やしてやった。
でも、あの子ったらたった2日で同じようなものを描きあげたのよ。
ほんと、可愛げがないわ。
実はね。
本当はね。
あんなことも、こんなことも。
ふたりの打ち明け話には、胸の悪くなるような、中には悪戯ではすまされないような行為もあった。
それをいかにも楽しげに話す様子は、もはや人間ではない別の何かのようだった。
そして、また。
ふたりの視線がこちらに向けられる。
「理奈ちゃんは? あなたは美穂に何かしたことはないの?」
「わ、わたし……? わたしは……」
「いいのよ、全部言っちゃえば。ねえ、ひとつくらい、何かないの?」
ある。
たった一度だけ。
わたしは結婚して3年になる。
夫には、美穂の紹介で出会った。
ほかの3人の夫たちには劣るものの、容姿も財力も能力もわたしにはもったいないほど素晴らしいものをもった人だ。
ただし、夜になると異常な行為を求めてくる。
誰にもわからないように、必ず自宅の地下室で。
密室の中で、裸にされ、縛りあげられて。
殴られ、蹴られ、あらゆる恥ずかしい行為を強要される。
わたしが泣きわめき、失神するまで続けられる。
毎晩。
そう、きっと、今夜も。
終わった後は「大好きだよ、愛しているよ」とまた優しい夫に戻る。
新婚当初は、頭がおかしくなりそうだった。
いまはもう、感覚が麻痺して何も感じなくなっている。
逆恨みだとわかっていても、美穂のことを許せなかった。
だから。
あらゆるウェブサイトを調べ、怪しげな業者に接触した。
お金ならいくらでも用意するから、一度でいいから、大勢の男たちを使って美穂をめちゃくちゃにしてやってほしい、と。
美穂がひとりで自宅にいる夜を狙った。
まだこの家に引っ越しする前で、セキュリティも甘かった。
後日、業者から送られてきた写真の束。
美穂がわたしと同じように裸に剥かれて縛られ、10人の男たちから凌辱されている姿。
綺麗な口から誰のものともわからない精液を溢れさせているのを見て、胸のすく思いがした。
美穂は数日は家に引きこもっていたが、その後何事もなかったかのように生活を続けている。
ぽつぽつと語ったわたしの話に、茜と由紀は少し青ざめながらも、賞賛の拍手を送ってくれた。
「やるじゃない! やっぱり理奈ちゃんはすごいわ。ねえ、その業者覚えてないの? わたしも頼んでみたい」
「そうよ、わたしだって。今度はもっと立ち直れないようなことをしてやりましょう。ああ、面白くなってきた!」