虹美ヶ丘の家-2
もともとわたしたちは、同じ高校・大学を卒業した同級生仲間だった。
そこは私立女子校で、授業料や諸費用、寄付金などが馬鹿高いことで名前が通っている。
そのかわり生徒たちは全員お姫様のように扱われ、贅沢で優雅な学校生活を約束され、なにひとつ我慢を強いられることはない。
当然そこに通うのは、日本屈指の資産家の娘たちばかり。
わたしはどちらかといえば彼女たちの中では底辺クラスで、小金持ちで成金趣味の両親の下に育ち、彼らのくだらない見栄のためにあの学校に放り込まれたクチだった。
入学当初は「友達などできないだろう」と思っていたのに、何を気に入られたものか学園の中でも特に恵まれた容姿や才能を持つこのグループの面々に声をかけられた。
「原田理奈さん、とおっしゃるのね。わたしたちとお友達になりましょう」
最初に鈴を転がすような声でそういったのは、まさしくファンタジーの世界から抜け出してきたような美少女、美穂だった。
彫りの深い日本人離れした顔立ちにやや茶色みをおびた髪、透き通るような肌、すらりと長い手足。
その後ろには、やはり可愛らしい顔立ちをした細身で活発そうな茜、ぱっちりとした大きな瞳とおしとやかな様子が印象的だった由紀が立っていた。
まるでどこかのアイドルグループのようだな、と思ったのをよく覚えている。
わたしは見た目も成績も凡庸だったが、彼女たちは違う。
勉強だけでなく美術や音楽などの芸術面でも、常に三人のうちの誰かが学年のトップになったり、何かの表彰を受けたりしていた。
そんな彼女たちを慕う子たちは多かったが、わたし以外に継続してこのグループの一員だった子はいない。
だれもがほんの一時期だけ擦りよって来ては、いつのまにかどこかへ消えていった。
最初は不思議に思ったものだが、いまでは「なるほどな」と思う。
彼女たちの傍にいると、これまで感じたことのない劣等感が刺激されるのだ。
容姿も、財力も、趣味としての芸術分野における才能も、彼女たちには敵わない。
それまで惨めな思いなど味わったことのないお嬢様たちには、きっと辛かったはずだ。
同時に、彼女たちがわたしをグループに引きこんだ理由もよくわかった。
ルックスも中身も平凡で、絶対に自分たちの存在を脅かすようにはならない。
それでいて、連れて歩いて恥ずかしいというほどでもない。
気軽な安心感を得られる存在として、手元に置いておきたかったのだろう。
わたしは別に、それでもよかった。
彼女たちと一緒にいられるだけで、自分まで特別な存在になったような気分になれたから。
だから、心の中では「変だな」と思うようなことがあっても、彼女たちの前で口に出したことは一度もない。
たとえ左に行きたくとも「右に行け」と言われれば従い、白いものを黒だと言われても逆らわず、常にニコニコと愛想笑いを崩さない。
おかげで彼女たちは、いつまでもわたしをペットのように可愛がってくれる。
誕生日には信じられないような高価なものをプレゼントしてくれるし、わたしには分不相応な夫まで紹介してくれた。
華やかなパーティーにも何度も連れて行ってもらったし、こうしてお城のような家で夢のようなひとときを過ごすこともできる。
ただの成金の娘には、過ぎた境遇だと思う。
文句を言えば罰が当たる。
それはわかっているのだけれど。
この関係が十五年も続いているのかと思うと、間違えて苦い雑草を噛んでしまったような、なんともいえない気持ちになることがある。