ハッピー・エスコート社 顛末記-9
9、
真知子の予約が続くので、他からの問い合わせに返事も出せない。
サイトは開店休業になった。
「いやあ、もうお金は要りません。僕も、お金が目的で始めたわけじゃないんで」
確かに需要はある。しかし、男性は女性のように、一晩に何人もの客を相手に出来ない。供給側にネックがあることに、すでに気が付いていた。
真知子の独占状態になってしまったので、健介は真知子に家の鍵を渡して、出入り自由の状態にした。
ネットのサイトも閉じた。
結局、ビジネスは最初の客一人で、終わってしまった。が、健介は、満足だった。本来の目的だった、理想のパートナーに恵まれたからである。
6月に入ると、健介の仕事が増えた。恒例の株主総会が近づいて、健介にとっては年に一度の腕の見せ所だ。
会場の予約、設営準備、総会資料の印刷、業者との打ち合わせ、株主への案内状、委任状の取りまとめ、最近はさすがに少なくなったが、それでも総会屋まがいのとぼけた奴との対応。
中旬になると、会社の近くのホテルに泊まりこみの、臨戦態勢となる。この時ばかりは、普段は昼行灯の健介も、第一線の指揮官も顔負けの実力を発揮する。
必然的に、体力的にも時間的にも、夜の営みは遠のいた。真知子の訪問も遠のいた。
月末近く、総会が無事に終わった。
「やっと終わったよ」
健介は、痩せこけた頬をたるませて、久しぶりに訪れた真知子に笑顔を見せた。
「大事なお話があります」
顔を固くしたままの真知子が、切り出した。
「夫が亡くなりました」
真知子の話すところでは、院長の夫は、真夜中に蜘蛛幕下出血で、あっけなく死んでしまったという。
健介は忙しいし、お出でいただくわけにもいかないので、お知らせしないままで葬儀は済ませたという。
「それはご愁傷様です。なんと言ったらいいのか・・・」
「私たちのことは、夫も了解の上のことですから、今まで通りでお願いします」