4章-6
「許さない」
初めて聞く、鏡哉の厳しい声。
びくり、美冬の小さな体が震える。
ドサリ。
気が付くと美冬はソファーの上に押し倒されていた。
「き、鏡哉さっ……んっ!」
襟ぐりの空いたワンピースから覗いた鎖骨の上に吸い付かれる。
「理由を言わないと、許さない」
美冬はとっさに逃れようと身を捩ったが、両手を鏡哉に抑えられていて、びくともしない。
「ほら、早く言わないと――」
ペロリ。
鎖骨に沿って舌を這わされる。
「やっ……」
「知らないよ――?」
暖かい舌がぬるりと鎖骨の上を辿る。
気持ちいいのか気持ち悪いのかよくわからない感覚に、全身がぶるりと震える。
「だ、ダメ……!」
「早く」
(も、もう、ダメ!!)
「あの人に、鏡哉さんに触れてほしくなかったんですっ!!」
限界を感じ、美冬は大声で叫んでした。
「あの人?」
「い、伊集院さんに、鏡哉さんを、さ、触ってほしくなかった――」
何の涙なのか、美冬の涙腺が壊れたように、涙が大きな瞳から零れ落ちる。
「ふ、ふぅ……やだ、やだったんです」
鏡哉が両手を解放したので、美冬は顔を覆って涙を堪えた。
「ふ、可愛い、美冬ちゃん」
そのいつものセリフに、美冬は恐る恐る手を退かせて鏡哉を見上げる。
そこにはいつもの見知った鏡哉の意地悪な笑みがあった。
(だ、騙された――!?)
驚いて瞳を見開いた美冬の目じりに浮かんだ涙を、鏡哉が吸い取る。
「よかった、美冬ちゃんがやきもち焼いてくれて」
「や、やきもち?」
「私を独り占めしたかったんだろう?」
(え、ええ〜〜!?)
そんな大それたことを思った覚えはないが、目の前の鏡哉はうんうんと頷く。
「私も美冬ちゃんを誰にも触れさせたくない。同じことを美冬ちゃんも私に思ってくれてうれしいんだ」
(そ、そうなのかな……)
鏡哉は体を起こすと、美冬の上半身を抱き上げた。
「美冬ちゃんは欲しいもの、全然口に出さないよね」
「え?」
ふと真面目な声で返され、美冬は上目づかいに鏡哉の表情を伺う。
「一年以上一緒に暮らしてきても、君はいつも自分の欲しいものを口にしなかった」
「そ、そんなこと」
「だから嬉しいんだ。少しでも私のことで焼きもちを焼いてくれたことが」
どきん。
美冬の心臓が大きく跳ねる。
頬が熱い。
真摯な瞳で自分を覗き込んでくる鏡哉から目をそらしたいような、そうでないような。
「美冬ちゃん、私は君が――」
(え……?)
「君が、愛おしくて愛おしくて、しょうがない――」