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籠鳥 〜溺愛〜
【女性向け 官能小説】

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4章-4



「お待たせいたしました、新堂様。お席の用意ができました」

 ウェイターに伴われ、店の奥に入る。

 すると一気に視界が開けた。

 そこは左右の螺旋階段になっており、階下には広いダイニングルームが広がっていた。

 頭上にはきらびやかなシャンデリアが輝いている。

(む、無理! 一般庶民の私には、煌びやかすぎる!!)

 くすり。

 頭上から笑い声が降ってきて、美冬は顔を上げる。

「下りないのなら、お姫様抱っこするけれど、いいの?」

 耳元でそうぼそっと囁かれ、美冬は声にならない悲鳴を上げた。

 足元には毛足の長いじゅうたん敷きの螺旋階段が続いている。

(ええい! どうにでもなれ!)

 美冬は磨き上げられた手すりに縋り付くように階段を降り始める。

 しかし履きなれないパンプスのため、どうしてもぐらぐらと心もとない。

「お手をどうぞ、お嬢様」

 手すりを掴んでないほうの手を取られそちらを見ると、鏡哉が楽しそうな顔でこちらを見ていた。

(もう、鏡哉さんからかい過ぎだから!)

 内心そう思って膨れながら、美冬は何とか階段を降り切り、案内された席へとついた。

 美冬は周りを見渡すが、ほかには客がいなかった。

「平日の夜だから、空いてるかと思ってね。実は上に個室があってそっちにしようかと思ったんだけど、ほら、女の子ってこういうロマンチックなメインダイニングのほうが好きでしょ?」

 鏡哉は渡されたメニューを見ながら美冬の疑問に答えた。

(ええと、できれば誰もいない個室のほうがよかったです……)

 美冬は意味の分からないメニューに目を白黒させながらそう思う。

(アミューズブッシュ? ラグー? スペッツレ? ペシューエベルラン?)

 聞きなれない料理名ばかりだったが鏡哉はさっさと頼んだ。

「この子にはペリエ。私はグラスのシャンパンと、あとワインリストを」

「あれ、鏡哉さん、車は?」

「代行頼むよ。せっかく美冬ちゃんとお出かけできたんだから、飲みたいし」

「そ、そうですか」

 美冬は結局まったく意味の分からなかったメニューをウェイターに返す。

 ソムリエらしき人が恭しくペリエとシャンパンを注いでくれる。

 コポコポコポ。

 ぱちぱちと弾ける泡に見惚れながら、美冬は口を開く。

「そういえば、鏡哉さんは家ではあまりお酒を召し上がりませんね?」

「いや、飲んでるよ」

「え?」

「美冬ちゃんが寝た後に、ウィスキーやワインを」

「気が付きませんでした」

 そう言われれば、食器洗浄機の中に使った覚えのないワイングラスやバカラのグラスがたまに入っていたような気がする。

「ほら、美冬ちゃんが起きてる時に飲んだら、なんかまずいでしょ」

「……? どうしてですか? 私は飲みませんよ?」  

「酔った私が悪戯してしまうかもよ?」

「………っ!」

 平然とそう言ってのけた鏡哉は、愕然と口を開けた美冬のグラスにチンと自分のグラスを重ねた。

「誕生日おめでとう、美冬ちゃん」

(え……?)

 正気に戻った美冬は、はっと鏡哉を見つめる。

 眼鏡の奥の切れ長の瞳が、まるでとても愛おしいものを見るように細められていた。

「鏡哉さん、何で知って?」

「私は君の保護者だよ。知らないことがあるわけがない」

 本当は秘書の高柳を使って調べ上げたのだが、鏡哉はそこはあえて言わない。

「って言いながら、去年の誕生日は失念して祝ってあげられなかったからね。今年は存分に祝ってあげようと思ったんだ」

「鏡哉さん……」

「アミューズブーシュでございます」

 銀色に輝く皿の上にきれいに盛り付けられた小さなシューが饗される。

「ほら、食べて」

 鏡哉に促され、一つを口に含む。

(美味しい――)

 いつも食べているものも特別の食材を使っているのでおいしいが、やはりプロの作るものは次元が違う。

 だが美冬はそこで先ほどの話の続きを思い出した。

「鏡哉さん……いくら誕生日だからって、私、こんなことをしてもらう覚えはないんです。だって、私は――」

「私の可愛い子犬ちゃん?」

「違います!」

 からかう鏡哉に、美冬は膨れてみせる。

「違うよ、美冬ちゃん。私が欲しいのはそんな言葉じゃない」

「え?」

「今日は君の喜ぶ顔が見たかったんだ」

「鏡哉さん……」

「ほら」

 鏡哉にプティサレを差し出され、条件反射でそれを口に含んでしまった。

 中にはサーモンが入っているらしく、何とも言えぬ味わいが口いっぱいに広がる。

「美味しい?」

 鏡哉が美冬を覗き込むように聞いてくる。



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