友人として、そして岳父としての願い-4
「まだ根に持ってやがったとはしつこい奴だ。そんなのは時効だよ。これは今の話だ。娘を取られる親は10発以上殴る権利が有る。未成年なら更に倍だ。それを1発に負けてやろうと言ってるんだ。それよりなにか?お前はオレに殴られるのが怖いのか?昔から根性無しだったからな」
「お前、千尋の前で言うに事欠いて根性無しとはどういうことだ」
「じゃあ根性の有るとこを千尋に見せてやれよ」
千尋を前にして、慎吾の挑発にオレは乗った。
「ああ、見せてやるよ。お前のへなちょこパンチは昔も全く効かなかったからな」
2人のやり取りを見ていた千尋が、呆れ返って言った。
「2人ともバカじゃない。そんなの見せられて、あたしにどうしろって言うの」
「いいんだ。これは慎吾とオレのケジメだ」
「そうだ、千尋は黙ってろ」
「ホントにバカ!あたしは知らないから勝手にバカ同志やってなさい。マジでバカバカしくて見てらんないから、あたしがお茶を買ってくる間にやってなさいよ!バカー!」
千尋は怒鳴ると、プイとそっぽを向いて病室を出ていった。
それを見送った男2人が、ばつの悪そうな顔を見合わせた。
「おい、怒らせたぞ。ああ成った千尋はしつこいぞ」
オレは戸惑い気味に慎吾に言った。
「ああ、知ってるよ。まあ、なんだ。浩太、ちょっと顔を近づけろ」
同じく戸惑い気味の慎吾が、変な空気を払うように言ったので、素直に従った。
「何だよ」
「お前が怪我をして千尋が心配したら可哀想だ。だからこれで許してやる」
慎吾はそう言って、差し出したオレの頭に、ビシッとデコぴんを決めた。
「いってーーっ!」
高校時代から、効きすぎると定評のある慎吾のデコぴんに、オレの頭は一瞬クラクラした。
ふと視線を感じ、そちらを見ると、病室の外から様子を窺っていた千尋の姿が目に付いた。
千尋が安堵の表情を浮かべなが、お茶を買いに行くのをオレは見送った。
「いい娘だろう」
同じく千尋を見送った慎吾がしみじみと言った。
「ああ、いい娘だ。お前の娘とは思えない」
オレもしみじみと言った。
「ところで、お前に一つ聞いておきたいことがある」
わだかまりが取れたのか、慎吾がガラリと声のトーンを変えて聞いてきた。
「何だよ?」
オレは少し構えて聞き返した。まあ、多少のわがままは付き合ってやるか。
「お前、昔から知子のことが好きだっただろう」
「何だって!」
オレはその突然の指摘に驚いた。
「今の浩太が千尋を見る目は、昔から知子を見る目と同じだったからな」
「ほ、本当か?」
自分が今、千尋をどんな目で見ていたかなんてわからなかった。そんなオレを慎吾の視線がマジマジと見据えてきた。
「気付いていたのか…」
ひた隠しにしていた想いが気付かれていたと思うと、一気に血の気が引いた。
「嘘だよ。千尋のことを好きになったと聞いて、その可能性を考えてみた。何しろ考える時間は一杯あるからな。それにお前が付き合う女たちは、どれも知子に似ていたからカマを掛けてみた。それが図星だったとはな」
軽蔑したように見据える目に、どう対応していいかもわからず、また、視線を反らすのも気が引けて、暫くその目を見返すしかなかった。
しかし、こんな拷問のような試練には、到底我慢できない。開き直ったオレはふうっと息を吐いた。
「すまん。高校の頃から知子はオレのオナペットだ」
「何だと!オレの知子を汚しやがって」
「安心しろ。もう、汚すことはない。もうオレにはその必要が無いしな」
「バカ、当たり前だ!開き直りやがって。しかし、オレはこんな変態野郎に、千尋を託して本当に大丈夫なのだろうか」
慎吾がさっきより強い目でオレを睨んだ。