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愛しているから
【青春 恋愛小説】

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勇気ある撤退-9

「それじゃ、お前は中川さんと付き合ったこと自体がマグレで、間違いだったとでも言いたいのかよ!」


「……沙織にとっちゃ間違いだったかもな」


「ふざけんなよ、それで中川さんを諦めるのか? このまま兄貴に取られても平気なのか?」


州作さんのことを言われると、胸が痛む。


そんな胸の痛みをごまかすように、苦笑いを浮かべた。


「沙織を他の野郎に取られるのだけは、死んでも嫌だよ」


「だったら!」


「でも、さっき、心の中に秘めてた汚ねえ想いを沙織に聞かれた以上、もう顔合わせられねえよ」


頭ん中は、ヤりたいってばかり考えて、それなのに劣等感が卑屈にさせて。


彼氏がこんな小さい男だって知ったら、誰だってドン引きするに決まってる。


「だから、もういいんだ」


「大山……」


何か言いたげだった歩仁内だけど、恐らく奴もそう思っているから否定出来ないのだろう。


結局黙りこんでしまい、砂利を一つ、蹴飛ばした。


そんな悔しそうにしている歩仁内の横顔を見ながら、


「好きな気持ちだけは誰にも負けねえんだけどな」


と呟くけど。


その独り言は歩仁内の耳にも届かないくらい小さなものだったから、誰に知られることもなく、星空に吸い込まれていった。


好きだけど、沙織に嫌われたのなら、この気持ちは彼女にとっては迷惑なだけ。


だったら身を退くのも一つの愛の形だよな?


そうだ、これは勇気ある撤退ってヤツなんだ。


そう自分に言い聞かせた俺は、ようやく気持ちに整理がついたので大きく伸びた。


「さて、戻るか」


歩仁内に声をかけた、その時。


「キャーッ!!!」


と、絹を裂くような声がタープの方から聞こえてきた。


歩仁内と目を合わせてから、みんなの方に視線を向けると――。


「沙織! しっかりして!」


「沙織ちゃん!!」


「水だ、水飲ませろ!」


ウッドデッキの上で青白い顔をして横たわる沙織の姿と、彼女の周りを取り囲むようにして必死で名前を叫ぶ石澤さんや本間さん、沙織の背中を一生懸命さする修、そして、青ざめた顔で立ち尽くす州作さんの姿があった。






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