勇気ある撤退-8
もちろん愛してるという気持ちは今も揺るがないと、そこだけは胸を張って言える。
だけど、沙織に対する気持ちは純粋な愛だけじゃない。
不安やコンプレックスのようなよくない感情も、比例してくる。
言い換えれば愛してるから不安になったり引け目を感じたりするってこと。
それをも受け止められる器なんて持ち合わせていない俺は、沙織とは遅かれ早かれ破綻していただろう。
それがたまたま、このタイミングでやってきただけなのだ。
「なあ、大山……なんとか中川さんともう一度話してみたら？」
「うーん……」
「別れたくないんだろ？ 好きなんだろ？」
「まあ……な」
「だったらさ！」
必死で俺を説得しようとする歩仁内の顔を見ながら、静かに頭を振る。
そりゃあ別れたくないさ。大好きさ。
だけど……。
「俺さあ、女の子にモテた試しがないんだ」
「は？ なんだよいきなり」
眉をひそめる奴に構わず、俺は話を続ける。
「一応、髪とか服とか気を遣って、割りと目立つグループに入ったり、それなりに自分はイケてるなんて思ってたんだよね。
でもさ、女の子から好きなんて言われることもなくてさ」
突然の自分語りに、ポカンと口を開けて言葉を失う歩仁内。
対して俺は、立て板に水のごとく、スラスラ言葉が出てきた。
認めたくなかったコンプレックスや、現実。
冷静に言葉にすることで、胸にずっとつっかえていたしこりのようなものが、取れたような気がしてくる。
「そんな俺がさ、沙織みたいな可愛い娘と付き合えたことはマグレだったんだよ」
「マグレとか、んなわけねえだろ！
中川さんがお前を好きなの知っててそんなこと言ってんのか！？」
睨み付けてくる歩仁内は、本気で怒ってるようだ。
ああ、今日はぶつかってばかりだ。