波乱の高円寺-6
中央線ホームでオレンジ色帯の電車を待っていた。中央線快速がホームに入ってきて、風を切って通り過ぎていった。土曜日曜は高円寺に停車する急行の本数が少なくなるのかもしれない。
「高円寺を見放す中央線快速は嫌だね」
右手から声を掛けられた。井上真帆だった。
「真帆、新宿に行ったと思い込んでた」
「今から行くの。ちょっとドラッグストアに寄ってた」
「風邪?」
「ううん、コンドーさん買った」
「こんどう?」
真帆は淡々と言った。表情から一瞬、愁いが見えたのは何故なんだろう。
「大きい声では言えないけど、避妊具だよ」
レイは言葉が出ない。
「今夜は求められるかもしれないって思ったら、急に恐くなって……。レジに持っていくとき、どきどきだった」
「そう……」
「レイ……」
「ん?」
「レイは渡部先生とつきあうの?」
「うん……。つきあえたらいいなって思う」
「あの人はまじめそうだもんね。レイには、同年代の人より、渡部先生がいいかもしれない。でも……」
「でも?」
「もし、クラスメートでレイに想いを寄せている人がいたら、その人の想いも大事にしてあげて」
「そんな人、いるかなあ?」
「いるかもしれない……」
「真帆は、早瀬先生と波長が合うんだ。意外すぎてびっくりだよ」
「私、強引で男臭い人が好きなんだ。意外でしょう?」
「うん」
「不安もあるんだ」
「えっ?」
中央線各駅停車の車両がホームに滑り込んできた。
「セックスしたいけど、恐いんだ」
真帆は三原レイの耳元でつぶやいた。
高円寺からレイが住んでいる中野までひと駅。横に座っている真帆は、じっと考え事に耽っていた。仕方なしに、今夜と明日の献立を考えていたら、いつのまにか中野に着いていた。
レイは降りたあと、ふと車両の窓ガラスを見た。真帆が懸命に手を振っていた。