3章-1
それから一年間――。
鏡哉は過干渉とまではいかないまでも、美冬のことを心配するあまり色々と世話を焼きたがった。
あまりに酷い時は美冬の印籠、
「私、子犬じゃないんだから、自分でできます〜〜!」
をかざせば、鏡哉も思いとどまってくれていた。
規則正しい生活を送っているのに、美冬の身長は変わらず小さいままで、体重も少しだけ増えたくらい。
胸に至ってはまな板だった一年前に比べ、なんとかBカップになったが、どうやらこれ以上は成長してくれないらしい。
同級生の女子達と見比べると、顔も童顔な美冬は、やはりまだ中学生のように子供っぽかった。
「う゛〜〜ん……」
いつものように鏡哉に髪を乾かしてもらいながら、美冬は唸る。
「うん? 熱い?」
背中越しに心配した鏡哉が尋ねてくる。
「いえ、気持ちいいです」
「じゃあ、何?」
「う〜〜ん、私、見た目こんなのじゃないですか?」
「こんなの?」
「子供っぽいっていうか――」
「ああ、ロリ専?」
聞きなれない言葉に、美冬が首だけで振り返る。
「ロリ……なんですかそれ?」
「ロリータ専門」
ぐさ。
(ロ、ロリータ……鏡哉さんから見ても、そこまで子供っぽいのか、私)
「どうして今になってそんなことを気にするの?」
「いえ、なんとなく……」
「でも美冬ちゃん可愛いし、モテそうだけれど」
「モテ……はしないです」
「告白されたりしない?」
実は美冬は2ヵ月に一回は告白されていた。本人は気づかないが、世の中にはロリ専が結構いるのだ。
「う〜ん、たまにされますけど」
「え、されるのか?」
「え、ええまあ」
「今付き合ってるヤツは?」
「い、いませんよ、そんなの!」
実は恋に奥手な美冬は初恋もまだだった。
「ふ〜〜ん……」
鏡哉はそう呟くと、少し不服そうな返事をする。
美冬が少し首を傾げて首だけで振り返ると、頬に柔らかい何かが触れた。
チュ。
可愛らしいリップ音を立てて、鏡哉が唇を離す。
(……え?)
「美冬ちゃんは、私のもの」
「……へ?」
凍り付いて動かない美冬をいいことに、鏡哉は座っていたソファーの自分の膝の上に美冬を抱え上げた。
「私の可愛い子犬を他の男にとられるなんて、許せない」
「は、はあ――!?」
(な、何言ってるのこの人ってば!?」
「はあ?じゃない。私がこんなに手間暇かけて育てたのに、横からほかの男にかっさわれるなんて、ありえない」
鏡哉は至極真面目な表情でそう言い捨てる。
(そ、育てたって……)
「っていうか、は、離してください!」
美冬は我に返りじたばたと鏡哉の膝の上で暴れだす。
「美冬ちゃんが誰とも付き合わないって言うまで、離さない」
鏡哉はそう言うと、美冬の上半身をギュッと抱えなおした。
お互いの薄い夜着を通して鏡哉の熱が美冬に密着する。
広い肩が頬に当たって妙に熱くなる。
鏡哉の胸に密着した腕に、規則正しいトクトクという鼓動が伝わる。
(は、恥ずかしい――!!)
美冬の鼓動はドクドクとうるさいくらい加速していく。
「つ、付き合いませんから! 誰とも付き合ったりしませんから、離してくださいっ!!」
叫ぶようにそう懇願した美冬に、鏡哉の腕の力が弱まった。
「よく出来ました」
鏡哉は今度は美冬の額にチュッとキスを落とすと、少し名残惜しそうに美冬を解放した。
美冬は鏡哉から離れ、おでこを両手で押さえて目の前に立つ。
その美冬を見た鏡哉がくすりと意地悪そうに笑った。
「美冬ちゃん、真っ赤。可愛い」
「き、鏡哉さんのイジワルっ!! もう寝ますっ! おやすみなさい!!」
美冬はさらに赤くなりながらそう言い捨てると、自分の部屋に逃げ込んだ。
後ろからはくすくすと楽しそうな含み笑いが聞こえていた。
(か、からかってる……鏡哉さん、絶対私をからかって楽しんでる!)
その夜以降、鏡哉はなにかと美冬にキスをするようになった。
美冬も隙を作らないよう気を付けているのだが、いかんせんいつも一緒にいるのだ、どうしても隙ができてしまう。
(まあ、唇には絶対してこないから、私のファーストキスは死守できているんだけれど――)
チュ。
(ま、またされた……)
朝食の準備をしていた美冬の後ろから、鏡哉が首筋にキスしたのだ。
一瞬包丁を持ったまま振り返ってやろうかと思うが、思い直し包丁を置いて振り返る。
「鏡哉さん! 駄目ですったら」
「セーラーにエプロン姿がかわいくて可愛くて」