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籠鳥 〜溺愛〜
【女性向け 官能小説】

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1章-3



 くんくん……。

(ん、なんかいい匂い〜〜)

 微動だにせず眠りこけていた少女の鼻が小さく揺れる。

「くすり」

 頭上から誰かが笑った声。

 少女――美冬(みふゆ)は重い瞼を何とか上げると、ぼんやりと霞んだ眼を擦る。

「駄目だよ、こすっては」

 擦っていた腕を誰かに取られる。  

 暖かい、自分の腕などすっぽりと掴まれてしまう大きな掌。

(ん……?)

 何度か億劫そうに瞬きし徐々に視界がクリアになった美冬は、その掌の主を見つめ寝転がりながら口を開いた。

「……お兄さん、だれ……ですか?」

 自分を見下ろしている人は、酷く冷たそうな容貌の男の人だった。

(この人がさっき笑ったの?)  

「それより、お腹すいてないか?」

 美冬の質問には答えず鏡哉は質問を返す。

 ぐ〜〜。

 美冬の代わりにお腹が正直に鳴いた。

「くっ……起きられるか? 食事を用意してある」

 鏡哉は小さく一つ笑うと、恥ずかしさから真っ赤になった美冬の額に手を添えた。

「ひゃっ?」

 いきなり触れられて美冬は小さく肩をすくませる。

「熱はないな」

 鏡哉はなんてことはない様に手を引くと、起き上がろうとする美冬の背中を支えた。

 見慣れぬ大きなベッドの背に何個ものクッションをあてがわれそこに落ち着くと、上掛けの上に盆に載った食事を置かれた。

(なんだろう? おじや?)

 クリーム色のスープのようなものに米が入っているそれからは、とても美味しそうなチーズ香りが漂ってくる。

 初めて見る料理に首を傾げている美冬のベッドの隅に、鏡哉が腰を掛ける。   

「リゾットだ。見たことないのか?」

「……ないです」

「味見はしたから不味くはないと思うが……もしかしてチーズが食べれないのか?」

 すこし心配そうにそう問いかけてきた鏡哉に、美冬はぶんぶんと首を振ると手を合わせ

「いただきます」と銀色に輝くスプーンを取った。

「ん〜〜っ!?」

 リゾットを口に運んだとたん、美冬は大きな瞳をさらに大きく見開いて唸る。

「なんだ?」

「め、めちゃくちゃ美味しいです!」

 そう言ってあっという間に2杯も平らげてしまった美冬は、満腹 になって微笑んだ。

「御馳走様でした。幸せ〜っ!」

 その微笑みがあまりに幸せそうで、鏡哉の鉄面皮の頬も少し緩んだ。

(うわあ、綺麗な人……って男の人なのに、きれいって変かな?)

 ぼうと鏡哉を見入っていた美冬は鏡哉の一言で我に返った。

「ところで、君は誰? なんであんなところで倒れたの?」

「……倒れた?」

 ぽかんと聞き直した美冬はその時初めて自分の姿を確認した。  

 赤いコートは脱がされていたが、セーラー服を着たままだった。

(そうだ、私あの時――)

「す、すみません! 私、鈴木美冬って言います。あ、あの時、バイトに向かおうとして、あまりの空腹と眠さに――!」

「私の車のボンネットに突っ伏して寝てしまったのか」

 あの時、頭がくらくらして視界が黒くなった時に何かにぶつかった気がしたが、どうやらこの男の車だったらしい。

「ほ、ほんとスミマセン!! く、車へこんでなかったですか?」

 美冬はそう自分で言ってから真っ青になった。

 この部屋はどう見ても一般の住居とは異なる。

 美しくそしてセンス良く整えられた、見るからに高級そうと分かる家具たち。

 目の前の男の様相からも多分高級車に乗っているだろう、その車にもし凹みでも付けてしまっていたら、幾ら弁償することになるのだろうか。

「大丈夫、車は何ともない」

 必死な形相で聞いてきた美冬に鏡哉は頷いてみせると、美冬はほっとした表情で大きく息を吐いた。

「私は新堂鏡哉。しかし、君中学生だろう? バイトなんかして大丈夫なのか?」

 そう訝しげに見てきた鏡哉に、美冬はすこしべそをかきそうな表情で言い返した。

「う……私、これでも高校一年生なんです……」

「高校生? 本当に? 悪い、小さいから間違えた。しかし高校生が倒れるまでバイトをするのは感心しないな」

 小さいと言われ、美冬はまた少しへこんだ。

 しかし、高校という言葉にひっかかり顔を上げる。

「あ! 学校っ! 今何時ですか?」

「8時30分」

「あ〜〜、また遅刻だ〜〜」

 鏡哉はがっくりと項垂れた美冬の膝の上から盆を取り上げると、部屋を出て行った。

(っていうか、ここどこ――?)



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