カミングアウト-3
(あっ、なんだ。 外ですれば良いのよ。 なんで、もっと早く気がつかなかったんだろう)
リビングルームの窓はサッシになっていて、開ければ外のテラスへ出ることができ、さらに庭へ下りることもできる。
真奈美はソファーから、そろりと立ち上がるとサッシへ近付いていった。
側で見ると、どうやらサッシに鍵はなく、単純にロックを外せば開けられそうだ。
(よかった、助かったっ!)
一安心した真奈美は庭へ下りようとサッシに手を掛けたが、開けるのをためらった。
その庭は、広そうだが何とも殺風景だ。 長い間手入れされていないのか、地面は芝生と一緒に雑草が生い茂り、その間をまるで迷路のような獣道が縦横に走っている。
そしてその奥には、視界を遮る高い壁が迫っていた。
(何だか、ヘビとかムカデとか出てきそう)
真奈美は暫くサッシに寄り掛かり息を潜めて外の気配を探ってみた。
(何も音はしていないわ)
どうやら何も居ないようだ。 真奈美は、サッシのレバーをひねってバチンとロックを外した。 重そうなサッシだったが、意を決して左右に押してみると、案外少ない力で滑るように開いた。
およそ30センチほど開いた窓の隙間から、そよ風が流れ込んできた。
(あ、いい匂い・・)
サラサラと葉を撫でながら草の萌える香りを乗せた暖かいそよ風は、乾燥していて肌を心地よく撫でていく。
(ああ、気持ちいい・・)
真奈美は大きく伸びをしながら深呼吸した。
(あっと、もうたまんない!)
リビングのサッシ窓を思い切り開くと、真奈美は靴下のままテラスへ飛び出し、そのまま庭へ駆け下りた。
地面は思いのほか乾燥しており、手入れされていない芝生や雑草が柔らかく伸び広がり、まるで草の絨毯のようになっている。
あたりを見回してみると、テラスの脇にひときわ高く育った雑草の茂みが見える。
(うん、あそこでしようっと)
真奈美は前屈みになって茂み入ると、周囲をキョロキョロ見回して誰も居ないことを確認した。 そしてちょっぴり恥じらいながらスカートの裾をたくし上げた。
屋外という明るく開けた空間で用を足すという行為に少し緊張した真奈美だが、太腿をくすぐるように撫でるそよ風が心地良い。
両手の指をパンティーの両脇に滑らせると、そのまま一気に膝まで下ろし、茂みの中へしゃがみ込んだ。
丁度、雑草が目のあたりまで伸びており、真奈美の姿をすっぽり隠している。 遠目には、かろうじてゆるふわボブの黒髪が茂みの中に見え隠れしているのが分かる程度だ。
(はああ・・ 外でするのも、結構気持ち良いものなのね)
ドキドキと高鳴っていた心臓の鼓動も治まり、両腿の付け根からは勢いよくアーチを描いて小水が放出された。
(はああ・・ 気持ちいいー)
今までずっと我慢していたものが一気に出て行く快感は格別だ。 体の芯からジーンと痺れるような感覚は、性感を刺激するように全身へ伝播する。
「あふうん・・」
思わず喘ぎにも似た声を上げてしまい、真奈美はハッと我に返り、少し恥ずかしくなった。 以前は知らなかった女の喜びというものを覚えてしまったからだろうか、どうも体が過剰に反応してしまうようだ。
(あたしってダメだ・・ サヨねえさんを助けに行ったのに、ねえさんの酷い仕打ちを見て、感じてしまった・・ それに、鬼塚さんの股間の立派なモノを見て、興奮してしまうなんて・・)
おぞましい光景を見て、ふしだらな気分になってしまう自分に嫌悪を覚え複雑な心境の真奈美を、涼風が辺りの雑草と一緒に真奈美の髪の毛をサラサラと揺らし、慰めるように体を撫で上げていった。
ガサッ・・
その時だった、風によって草が奏でる柔らかな音律に混じって、微かに違和感のある音が聞こえた。
ガササッ・・
暫くして、また自然が揺らす音では無い、ハッキリと聞き分けられる不自然な雑音が響いた。
(えっ・・ 誰か居るのかしら?)
放尿の快感にうっとり浸っていた真奈美は、ようやく意識を周囲に向けた。
ガサッ・・
その音は真奈美の背後から聞こえてきた。
(誰か・・ 近付いてくる?」
真奈美は息を潜め、気配を殺すようにして周囲を伺った。 体が一気に緊張で固くなる。 恐る恐る音がした方向へ振り向いてみた。
「あれっ・・ なにっ?」
真奈美は、目を疑った。 いつの間にか十数メートルほど先の雑草の茂みまで、鎌首をもたげた黒い大きな獣に接近を許していたのだ。
「ウォン!」
その黒い獣は、突如裂けるような大きな口を開き、尖った白い牙列と赤っぽく長い舌を振るわせ、空気を破くように激しい鳴き声を響かせた。
そして、その爆声と共に、淡い煙のような唾液の飛沫を空中に飛散させた。
「ひゃあ! あれは・・ ドーベルマン!?」
その黒い大きな獣は、正しくドーベルマンだった。 一切脂肪の無い、筋肉質のスリムな体。 鍛え上げられた鋼の肉体は、見る者を圧倒する迫力がある。 しかもその巨躯は並の大型犬どころでは無い。
しかし、こいつは以前、真奈美を襲ったベルと呼ばれるドーベルマンとは別の犬のようだ。 こいつはベルより一回り大きく、さらに逞しい。
半開きになった大きな口からはハフハフと激しく息を吐き出し、涎を滴らせている。 そして赤く燃えるような光を放ちながら、両の眼が真奈美をしっかり捉えている。
まるで狼に睨まれた子羊のように、威圧と恐怖で体が硬直し、その場から動けなくなっていた。
「やだ・・ やあっ、来ないでッ!」