ヘタレですけど-3
突然の指名に、沙織は目をまん丸くして固まっていた。
いや、沙織だけじゃない。石澤さんも、本間さんも、そして俺達も。
そうか。最初から、州作さんはこれが狙いだったんだ。
歩仁内が首を傾げるくらい不足がないはずの飲み物に、なんやかんやと理由をつけて買い出しに行こうとしてたのも、全ては沙織にアプローチをするため。
うまく息が出来なくて、現実を見るのが怖くて、中を見ることが出来ず、慌てて視線を海に向ける。
沙織が他の男に口説かれるのを目の当たりにしたくなくて、乱れた呼吸のまま、現実をシャットアウトしようとしたけど、静まる空気の中、やけに通る州作さんの声が、嫌でも耳に入ってきた。
「ね、沙織ちゃん、買い出しに行こ?」
「あ、あの……そういうのはあたしより、歩仁内くんと一緒に行った方がいいかも……」
「でもさー、楓はここを見ていてもらわないと。
準備したのは俺と楓だし、何があって何がないのかわかる奴がいないと、いざというとき困るだろ?」
「じゃあ、修達にお願い……」
「一応デザートも買おうと思ってるからさ、そういうのは女の子の方が詳しいだろ?」
何とかお誘いを断ろうとしている沙織と、食い下がる州作さんの攻防が続く。
そんな二人のやり取りを、ただじっと聞いていることしか出来なかった俺は、沙織が断ってくれることだけに一縷の望みをかけていた。
沙織を傷付けた俺には、州作さんを止める資格なんてないのだから。
「じゃ、じゃあ、女の子みんなで……」
沙織がついにそう言おうとした、その時。
「オレ、沙織ちゃんと行きたいんだよ」
と、州作さんの言葉がはっきり聞こえた。
水を打ったみたいに静かになってしまったその場に、波の音だけが耳を打つ。
何一つ行動出来ない自分とは違って、州作さんはあまりにまっすぐで、情熱的だった。