私が結婚しない理由(わけ)-1
1
料理旅館[岩倉]には、午後四時過ぎには着いた。渡井健二はいつもの二階の部屋に入ると、部屋備え付けの浴衣に着替えた。窓越しにある肘掛け付きの椅子に深く腰掛け、深呼吸をし、その後タバコをふかす。
そして接祖の街集落よりやや小高い所に建つ岩倉二階の窓から見渡せる景色を眺める。
「綺麗だな〜この風景。綺麗だったな〜加奈子ちゃん...。」
タバコをふかしながら対座にある椅子に向かい彼は一人言をいった。
「よし、風呂入ろう。」また彼は一人言を言い、椅子から立ち上がり、手拭いを持ち、浴室に向かう。
浴室には、ほかの客はいなかった。今日は宿泊予約は彼だけらしい。彼は体を流し、一番風呂に一人入った。長くゆっくり湯に浸かる。ここに泊まり、ゆっくり湯に浸かるのが、彼の楽しみだ。