最終話 空戦-5
(おぉ……あれが彩雲か……)
担架で医務室を兼ねた防空壕へ運ばれている途中、太陽に雲がかかって虹色に光っているのを森口は見た。何が吉兆だ。負傷してから出たって遅いじゃねぇか、西川の馬鹿野郎も逝っちまったし、出るならもっと早く出て来いや。
「少尉! 森口少尉!」
空に浮かぶ彩雲に向かって不平をこぼす一方で、耳元ではうるさいほど清水が自分の名前を叫んでいるのが聞こえていた。
(うるさいぞ……聞こえてる)
そう言おうと声を振り絞ったが、声は出なかった。とたんに疲労感と眠気が大きなうねりとなって押し寄せてきた。それに抗う術は森口はあいにく持ち合わせていなかった。
(寝ようか……起きてから笑って殴ってやればいいだろう)
目を閉じた覚えはないのに、視界がゆっくりと黒一色に塗りつぶされた。奥行き感のない真っ暗闇。その中で、自分の名前をしつこいくらいに呼ぶ部下の姿だけが、意識が闇に飲まれる最後の瞬間まで浮いていた……。