ルームメイト-1
アキオが部活から帰ってきた。
「お疲れさん」
振り向いたルームメイトのナオキは、首からタオルをさげていた。
風呂あがりとみえて、Tシャツの襟元からのぞく首筋や、袖口から突き出た二の腕が、やや上気していた。
「アキオもはやく風呂に入っちゃいなよ。あとで勉強みてやるから」
スポーツ推薦で入学し、全寮制の環境で武道に打ち込むアキオは、どうしても学業のほうが遅れがちだった。
学校側もそれを見越しているのか、スポーツ枠で入学してくる生徒の同室には、成績の優秀な生徒を選んでいるふしがある。
事実、ナオキは学年でもトップクラスの秀才だった。
そのかわり体つきは華奢で、アキオと並ぶと頭ひとつ低く、胴回りなどはアキオの半分ほどにしか見えない。
まさか本当にそんなことはあるまいが、とても同学年には見えない体格差ではあった。
自然と互助互恵の関係をつくり、協力の精神を育めるよう配慮したものだろうか。
だが些細なことでそのバランスは崩れる。
多感な成長期においては、特にそうだった。
「どうしたの?」
ナオキが無言のまま突っ立っているの不審に思い、小首をかしげていた。
アキオは視線を動かすことすらできず、思い詰めた形相を強ばらせている。
何かしら自分の内側に沸き起こる衝動を抑え込むかのように、両の掌を握りこんでいる。
「何をぼんやりしてんのさ」
「お、俺は……」
ナオキの端正な容姿は、まだ男性的といえるそれではなく、あどけなさが残る顔立ちは、よく女子と勘違いをされた。
そこを本人も気にしており、だからこそ男性的に振る舞うことを心掛けてはいたのだが……。
その怪訝な表情が不用意に近づき、手の届く距離まで近付いたとき、アキオの表情から理性が掻き消えた。
「俺は、前から……!」
或いは肉体的な疲労が精神のたがを弛くしていたのだろうか。
鼻孔に届いた石鹸の香りが、抑えていた欲望の堰を切ったのかもしれない。
彼はいきなり腕を掴んで、ナオキをベッドに放り投げた。
ナオキは軽々と、ほとんど宙を舞うように投げ出されて、ベッドのスプリングを軋ませた。
「何すんだよ!」
抗議の声をあげたとき、もうアキオの体躯が迫ってきていた。