Mirage〜2nd Emotion〜-1
『神崎くん、優しいな』
目の前で、少女が微笑む。
優しく、それでいて何かを憂えるような、捉え所の無い微笑。
ああ、まただ。
僕の深い場所が、ずきん、と痛む。
きっと、目を覚ませば痛みもきっと消えるはず。
そう、願った。
風が、僕の体を撫でる。その冷たさで、僕は目を覚ました。
みっともなく布団に包まりながら、寝ぼけ眼をごしごしと擦る。開ききらないその双眸で、窓が開いていることを確認するとうの夏はもうとうの昔に過ぎ去ったのだと肌で知った僕は、のろのろと重い体を起こし、ぴしゃりと窓を閉じた。
僕は制服にも着替えず、再びベッドに腰掛けた。そして自分の胸骨の真ん中に、そっと掌を当ててみる。
痛みが、消えない。
じくじくとした痛みは、まるで暖炉の残り火のように、僕の胸の奥で燻っていた。
どれくらいそうしていただろうか? 僕は立ち上がって一つ舌打ちすると、荒々しく部屋着を脱ぎ捨てた。
炎の勢いが強まりつつあることを僕は知っていながら無視した。
いずれそれが、僕の大切なものを焼き尽くしてしまうことさえ知らずに。
「‥‥文化祭?」
朝の教室での一場面。僕と周が前日に出された英語の課題の見直しを──というよりは、周が一方的に僕のノートを丸写し──していると、千夏と筑波が机の横までやってきた。
「あんた、まさか知らんかったん? もう明後日やで」
千夏があきれたように胸の前で腕を組んだ。そんなことを言われても、僕はそういった行事には興味はないので、別にどうだっていい。
「もしかして、うちのクラスって何かやんの?」
写し終わったノートから顔を上げて、そう訊いたのは周。どうやら、詳しいことはこいつも知らなかったらしい。