Mirage〜2nd Emotion〜-2
「いや、基本的にそういう出し物とかは3年生だけ、っていうのが暗黙の了解になってるらしいで」
僕の椅子の背もたれの部分の手をかけながら答えたのは筑波。なるほど、と僕は一人で納得する。
ちなみに、あの花火大会の後、廃ビルで別れた次に彼女と会ったのは2学期の始業式。僕は少なからず複雑な想いを抱いていたが、彼女は僕が拍子抜けするくらい普通に僕と接した。その態度を『あまり蒸し返すな』、との意思表示として認識した僕は、ここ一ヶ月ほど、できるだけ自然に彼女と相対してきた。
「どうせあんたならどうでもいいとか思って、学校来(け)ぇへんつもりやったんやろ?」
千夏は目を細めて僕を見下ろす。ほぼ、正解だ。確かに、正直言って、文化祭には全く興味は無い。
「阿呆。ちゃんと出席くらいとりに来るわ」
そう、こんなことで出席日数を削られては堪ったものではない。
「どっちも一緒やない。そうはさせへんで」
「なんでやねん。俺の勝手やろ」
毎度のことながら、千夏は威圧的な態度で僕を睨む。僕は一つため息をつき、目を逸らす。
以前、千夏は祭好き、と述べたことがあったが、彼女にとっては、由緒正しい伝統文化であろうが、ただの学生のちゃちな学園祭であろうが関係ないらしい(もちろん、そのときにも千夏は迷子になっている)。とにかく、祭りと名のつくものが好きなのだ。
「っていうかな、何で千夏はそこまで幸妃にこだわるん?」
見かねた周が助け舟を出す。すると、なぜか筑波と千夏が顔を見合わせて笑いあう。
「神崎くんは、うちらの保護者やもんな」
筑波が僕の顔を覗き込む。もはやツッコむ気力すら僕の体からは消え失せていた。
翌々日。薄い雲が残雪のように蒼穹に散りばめられた空は、秋の訪れを僕に再認識させた。
土曜日ということもあって、校内、校外のあらゆるところに他校の制服や私服を身にまとった高校生たちの姿も見受けられる。どうして休日なのに制服なのかは理解に苦しむところだが。
そして僕は、出席を取りに学校に来ていた‥‥はずだった。
「‥‥何や、コレ」
僕は右に千夏、左を筑波に挟まれて模擬店の並ぶ校庭を歩いていた。どういうつもりだろうか、周は少し離れた後方でにやにやしている。
「何贅沢言うてんの。両手に華やないの」
「神崎くんもほんまは嬉しくてたまらんクセに」
両サイドの息も抜群だ。
しかしこの二人と歩くのは三回目とあってか、僕はもう慣れたものだった。しかも今回は千夏が迷子になることも、酔っ払ってカラんで来る心配も無いので、少なからず安心していた。
ただ、気になるのは、先ほどから四方八方からむやみやたらに浴びている視線。しかも、どれもこれも負の感情がふんだんに盛り込まれている。確かに、この二人の容姿は他校生を含む周りの女子生徒の平均よりも遥かに上だ。それは認めてもいいけど。