おっさんの純愛-1
「え?団長って独身なんですか?」
魔法大国ゼビアの城にある食堂で、王妃専属近衛騎士キアルリアが素っ頓狂な声を上げた。
「うむ……機会も無かったし、特に必要性も感じ無かったのでな」
団長と呼ばれている男性、スオウ=ダール45歳はそう言うと豪快にカツレツを頬張った。
「必要性って……」
別に必要だから結婚する訳ではない。
「つうか、こんな筋肉髭達磨が近くに居たら普通に恐いっつうの」
そこに割り込んだのはキアルリアの夫、アース。
今は王子護衛件教育係だが、以前はスオウの下で働いていた……の割には遠慮なくずけずけと酷い言い様だ。
「ふむ。確かに恐がられるな。しかし、特に困ってはおらんぞ?」
アースの言葉に大して怒りもせず、スオウは最後のカツレツを口に入れた。
「性欲処理は?」
ゴバアッ
しかし、キアルリアの口から出たとんでもない言葉には流石のスオウもカツレツを吹き出した。
「きったねぇなぁ」
アースはちょいっと指を動かして魔法を使い、汚物を綺麗に浄化させる。
「ガハッゲホッ……キャラ……一応、姫身分だろうが……」
その横で激しく咳き込みながらスオウは涙目でキアルリア、通称キャラを睨んだ。
キャラはぺろっと舌を出し、素知らぬ顔でデザートのプリンを口に運ぶ。
(……しかし……結婚か……)
今まで本当に興味が無く、いつかするだろうがしなくても構わない位の認識でしか無かった結婚だが、何となく改めて考えてしまう。
それは改めて考える、要因があるからだ。
「団長さん」
「ぬ?」
食事も終わり、腹ごなしに素振りでもしようかと食堂の裏の広場に来たスオウに、涼やかな声がかかった。
剣を肩に担いだまま振り向くと、食堂の裏口から1人の女性が出てくるのが見える。
「ミウ殿」
ミウと呼ばれた女性は30歳後半位、長い薄茶色の髪をキュッと頭の上でお団子型に結っていてハキハキした感じを受ける女性だ。
ミウはパタパタとスオウの元に駆け寄ると、紙袋を渡す。
「はい。今日の分」
「む。いつもすまない」
スオウは紙袋を受け取るとそそくさと懐にしまい込んだ。
「アハハっこれっ位しか恩返し出来ないしね」
ミウはウインクしてケラケラと笑う。