おっさんの純愛-4
『これっ』
『む』
それは細長いシュー生地で出来たお菓子。
エクレアのような形だが表面にはチョコではなくゴツゴツしたものがまぶしてあった。
『むぅ』
見た目では味の予想がつかず、スオウは唸る。
そこに細い指がスオウの顔の横から伸びて、涼やかな声が店員にかかった。
『すみません。これ3つください』
それはミウだった。
『ぬ?』
スオウが顔を上げるとにっこりと微笑んだミウと目が合う。
『ご馳走させてください』
『いや、それは……』
『公園!公園で食べよっ!』
断ろうとしたスオウだったが、大きな手の中でちっこい身体を揺らしてまでリオに誘われ、スオウは仕方なく頷いた。
その後、買ったお菓子を食べ、妙にはしゃぐリオの相手をして遊んでやり、合間にミウと話をして……ふと、こういうのも良いな……と思った。
そして、疲れて眠ってしまったリオをおぶって帰っている時に、ミウが独り言のように呟いた。
『思いっきり笑ったの……久しぶり』
チラッと視線を向けると彼女は眩しそうに夕日を見ていた。
その視線は土砂崩れの時に見た彼女の視線と同じものだった。
何もかもをなくした筈の、茫然自失な筈の彼女の目に宿る強い光。
『あ、そうだ』
突然、ミウがぽんっと手を叩いたのでスオウは慌てて目を前に向けた。
完全に見惚れていたのがバレませんように、とバクバクうるさい心臓を落ち着かせる為におぶっているリオを抱え直すふりをして身体を揺らす。
『……む……』
『お昼の後、いつも裏の広場で素振りをしてらっしゃいますよね?』
『ぅむ?何故それを』
『アッハッハ、そりゃ分かりますよ!』
『ふむ』
確かに、こんな巨体なのだから当たり前かとスオウは納得する。
『その時、食堂で余ったお菓子をお持ちしますね!団長さん、いつも無理して頼んで無いでしょ?』
『ぬ……何故それを……』
食堂のお菓子も美味しそうなのだが今まで自ら頼んだ事は無い。
風貌、立場、などなど似つかわしく無いので騎士団内では甘いもの好きを隠しているのだ。
『アッハッハ、だから分かりますって』
そんなに物欲しそうな目で菓子類を見ていたのだろうか?
と、スオウはばつの悪い表情になる。