第六話 侵攻の足音と休息の時間-3
「釣れねぇなあ……」
爆撃で破壊された防波堤の残骸から糸を垂れている森口が言った。
「腹減ったなぁ……」
西川が音を上げる腹部をさすって言った。彼も森口と同じように糸を垂れている。その隣には清水が同じく糸を海に垂らしていた。
清水の何気ない一言に素早く反応した森口と西川は、整備班の詰めている洞窟に押しかけて、釣り具を三本、奪う様にして借りた。
竿は切り出してきた手ごろな竹、糸は支給品の物、釣針は航空機の残骸から作られており、手作り感あふれる出来だった。森口、西川、そして、息を切らして追ってきた清水にとそれぞれ一本ずつ釣り具を持って、これまた数百メートル離れた海まで走って行き、防波堤に三人並んで糸を垂らしている次第である。
「エサが悪いわけじゃなさそうですけどね」
竿を水柱から上げた清水が、丁寧に餌だけ食われた釣針を見て残念そうに言った。エサは砂浜で捕まえた何匹かのゴカイを、何等分にも短くナイフで切って使っていた。
「お! 掛かった掛かった!」
森口の竿に引きが掛かり、彼は見事に魚を釣り上げた。掛かったのは、三十センチほどの大きさの、南方特有の毒々しい全身青い色の魚だった。
「ありゃあ……うまいもんですね」
籠に入れられてもピチピチ跳ね回る魚を指でつつきながら、西川が関心したように言った。
「ちょっと揺らすんだよ。そしたら、生きてるようには多少見えるだろ」
言いながら森口は竿を左右に小刻みに揺らして見せた。それにつられて釣針に付いてある餌もウネウネと生きているように動く。
「ほー。では、さっそく実践してみます」
感心した西川も言われた通りに竿を揺らして、引きがかかるのを待った。その隣では清水が、手応えを感じていた。
「やったぁ!」
清水も魚を釣り上げた。二十センチにも満たない小さな魚であったが、釣り上げたことは事実だ。嬉しそうに清水は籠に魚を入れて、またエサを付けて糸を海に垂らした。