第六話 侵攻の足音と休息の時間-2
帰投し、報告を終えた三人は仲良く並んで飛行場の隅の原っぱでしばしの間、羽を休めていた。
空襲により、日に日に駐機している機体の数は寂しくなっていく。今では彼らの彩雲含めて偵察機が四機展開しているだけだ。他は破壊されるか、他の比較的被害の少ない基地へ移動させられていた。段階的に移動されるので、彼らも近いうちにニコルス基地から離れることになるだろう。
「なぁ、そろそろ今年も終わるが、酒も来ないようじゃ新年も明けれないよな」
腕を頭の後ろで組んで枕にして寝ころんでいる森口が言った。彼は、かれこれ二週間近い禁酒生活を行っていた。もちろん、自発的に行っているわけではなく、単純に酒を含めた嗜好品の補給が来ないことに原因があった。
「全くですよ。タバコ一本満足に吸えやしない」
隣で胡坐をかいて座っている西川も同意した。彼はというと、拾ったタバコの吸い殻のしわを丁寧に伸ばしていた。しわが伸び切ると、火をつけて紫煙をくゆらせはじめた。酒と同じく、タバコも貴重な物となっていた。
「そういえば、今朝、島田君から整備班で釣り具を作ったと聞いたんです」
律儀に体育座りをして空を見上げていた清水が思い出したように口を開いた。その発言を聞いた瞬間に、彼の二人の上官の目の色が瞬時に変わった。
「そんな大事なことさっさと言えや。このノロマ野郎!」
「そうだぜ! ボケっとしてんじゃねぇや!」
二人の変容ぶりにについていけない清水は、表情を硬直させていた。
「おし、整備班の所に行こうじゃないか。西川上飛曹!」
「ええ。早くいきましょう、森口少尉!」
二人はやけにきびきびとした口調で示し合わせたように意見を合わせた。
「では、回れ右!」
「回れ右!」
森口の号令に西川が復唱してから、言葉通りに回れ右をする。
「整備班の洞窟まで駆け足!」
二人は出撃時のようなきっちりとした動きで整備班の詰めている洞窟まで駆け足で向かっていった。
「へ? あっ、待ってくださいよー!」
しばし、きょとんとしていた清水も情けない声を上げながら慌てて二人を追っていった。