第53章 処女と童貞の最後の夜をただ抱き合って過ごしたいの-1
食事を終えると、昴はひたぎを広い薔薇園へと誘った。
石畳を二人で歩く。足元の良い場所を選んでエスコートする昴の気遣いがとても嬉しい。あらためて昴を見つめてみる。鼻筋の通った凛々しい顔立ちに浮かぶ表情は、出会った頃に比べてとても優しくなった。長い睫毛の奥の瞳を覗き込むと、ひたぎを愛しむ、優しい視線が帰ってくる。立ち止まり、昴の胸に縋ってみる。
「綺麗な瞳をしているのね?」
「ひたぎに褒められると、ちょっと恐いな?」
「そうね。あなたを可愛いと思うと、私はどんな意地悪をしようかと考えてしまう・・・」
「ま、まじ!」
「嘘よ。今はそんな気分じゃない。本当にそう思ったのよ」
「そうか、ありがとう。ひたぎこそ綺麗だよ。瞳はもちろん、その全てに目を奪われる・・・」
「そんな事を言われると、意地悪をしたい気分になるかしら?」
「まてまて、どうしてそうなるんだ?」
「もう我慢できないわ。こうしてあげる!」
ひたぎが、昴の首に両腕を巻きつけ昴に唇を重ねていく。昴がひたぎの体を強く抱きしめる。そんな他愛も無い遊びを繰り返しながら歩いていく。あっと言う間に時間が過ぎていく、気が付けば空が夕焼けで赤く染まっていた。
「昴と話しているととても楽しいわ?あっと言う間に時間が過ぎて・・・でも、少し歩き過ぎてしまったみたい・・・」
ひたぎが足元に視線を落とす。
「どうした?足を傷めたのかい?」
「慣れないハイヒールだったから・・・」
ひたぎが、少し辛そうに昴を見上げる。昴は優しい笑顔で、ひたぎをお姫様抱っこで抱え上げた。ひたぎが嬉しそうに昴の首に手を回す。
「重くない?」
「ひたぎは羽のように軽い。守りたくなるよ。このまま屋敷まで運ばせてくれ!」
「私の逞しい王子さま・・・とても素敵よ・・・」
昴の腕の中からひたぎが問いかける。
「ねえ、昴。私はもう、あなたが欲しくてたまらない。屋敷に戻り次第、あなたを押し倒したいくらいよ・・・だけどその前にもう一つだけ思い出を作りたいの・・・処女と童貞の最後の夜を、ただ抱き合って、あなたの体温だけを感じて過ごしたいの・・・どうかしら?」
「ああ、忘れられない夜になりそうだ。一晩中、ひたぎだけを見つめて過ごすなんて、これ以上の幸せはないのかもしれないね?」
「そう・・・夜が明けたら一つになりましょう・・・あなたの童貞と私の処女で繋がるのよ・・・楽しみだわ・・・」
「ああ」