Limelight-7
『では、プロ初先発を見事初完封で飾った、成瀬圭介投手です!』
メガネのアナウンサーの紹介とともに、歓声がドーム内を埋める。俺は白い箱のような台の上に乗せられ、とりあえず帽子を取ってそれに応える。
『では、今日の試合なん──』
この後、ですが、と続くが、それはマイクに拾われることは無かった。
なぜなら、そのマイクは俺が奪い取ったから。
『あー、あー、あー。オイ! 亜希、聞こえてっか? まぁ、勝手に喋るけどな』
俺はマイクテストの後、声高らかに叫んだ。隣のアナウンサーは何事かと、目を丸くし、球場内はにわかにざわめき出す。
『お前の事情はわかった。お前もしんどい思いしてきた、ってことも』
そこまで言って、3秒ほど間を空ける。ざわめきは、徐々に収まりつつある。
『なぁ、俺ってそんなに頼りないか? ‥‥そりゃ、俺だってまだ21だ。けどな、俺にだってできることぐらいある』
俺は、ついには眼前に居並ぶカメラや記者たちに背を向け、三塁側ベンチの上に視線を移した。俺からは亜希の表情は見えないが。
『まず、こうやって野球が出来る。プロとして。でも、それだけじゃない。俺が、お前に出来ることは』
気がつくと、ドーム内には俺の言葉だけが木霊していた。両軍ベンチの選手や、コーチや監督まで俺の演説(?)の行方を、固唾を呑んで見守っていた。
『お前の中の、抱えきれない苦しみも、見えない過去の傷跡も、全部俺が消してやる! お前が俯くときだって、俺がお前の顔を上げてやる! 俺が‥‥俺がお前を支えてやるから!』
俺が三塁側ファールスタンドを指差すと、球場中の視線がそこに集まる。
『‥‥ま、後でゆっくり話そうか。以上』
そう言って俺はマイクをアナウンサーに返し、ベンチへと引き返した。
球場は、しばらく沈黙が支配していた。
──すぱぁんっ。
小気味のいい音が、貸し切りの狭いバーに木霊した。俺の最後の一球が、ミットを叩いたのと同じ音。
俺はその暴挙に反論すらできず、左の頬を押さえてただ呆然と目の前の女を丸くした目で見つめた。カウンターの向こうの顔見知りのマスターでさえグラスを拭く手を止めて俺たちを見ていた。
「何考えてんのよ! この超馬鹿!」
亜希は眉を吊り上げ、大声で俺を罵った。