Limelight-6
三塁側ファールスタンド。自軍ベンチのちょうど上。腰までの高さのフェンスに手すりに手を乗せ、身を乗り出している女が一人。若草色のカットソーの胸元は、シワになるくらい強く握り締められている。いつもクールで、年下のクセに俺を手玉に取る彼女は、とても不安そうにその鳶色の瞳を揺らしていた。
その彼女の白いフレアスカートを握り締めているのは、物心がついているかどうかもわからない、赤いトレーナーを着た男の子。きょとんとして、丸い瞳をこちらに向けている。
俺は、たぶん笑っていた。
嬉しいから? 多分そうだろう。でも、そんなシンプルな言葉では表せないような、自分にはまるで似つかわしくない感情が俺の心の器を満たしていた。
大丈夫。
俺は呟いた。
何が? と聞かれれば、言葉に詰まるけど。
俺は再び、ホームベースに向き直った。
誰かが俺を睨んでいるが、もう気にならない。
キャッチャーからサインが出る。
俺は初めて首を振る。
4つ目のサインに頷くと、俺は背筋を弓なりに大きく反らし、大きく振りかぶった。もうランナーはどうだっていい。
足を高く上げ、つま先をホームベースに向けた右足へと徐々に体重を移動させる。
グラブをはめた右腕をたたみながら胸のボタンが外れるぐらいに胸筋を張り、左肘から腕の振りを始動する。
十二分にしなりをきかせた左腕は、頭を少し過ぎた位置でボールをリリースする。指先から開放された白球は、白い軌跡を描いて大気を裂く。
──スパァンッ。
その音が耳に届いたとき、俺は左の握りこぶしを突き上げていた。
内角高めのストレートは、バットの軌道のその上を通過していた。
打者は、バットを振り切った姿勢で停止している。
スタンドに目を向けると、亜希はなんだかよくわからないような顔をしていた。嬉しいのか、恥ずかしいのか、とにかく、彼女は口元を両手で押さえて俺のほうを見ていた。男の子は、相変わらずきょとんとして、亜希を見上げていたけど。