Limelight-5
高校時代から、俺のスライダーはスカウト陣に評価は高かった。所謂高速スライダーというほどスピードが乗っているわけでもないが、手元で鋭く曲がるそれは、プロに入ってからも俺の決め球としての役割を十二分に発揮していた。
頷いた俺は再びセットに入る。
そのときに見た打者の眼光は、一層鋭い光を放っていた。
別に、それに臆したわけではない。
けれど俺が投じた3球目の変化球は、捕手のミットのやや左寄り、つまり、真ん中やや外寄り。
プロの世界では禁物とされる、決定的なコントロールミス。
それでも決して甘い球ではなかった。
それなのに。
──一閃。
乾いた音が、白球を飛ばす。
俺は打球の行方を追わなかった。ただ、膝に手をつき俯いた。
それだけに、一塁塁審から『ファールボール』のコールが聞こえたときは、まさに地獄から生還した気分だった。
俺はキャッチャーからボールを受け取ると、もう一度ドームの天井を見上げた。
──やべ、打たれるかも。
俺は心の中で呟いた。
帽子を被り直し、ちらりとホームベース方向を見遣ると、そこには鬼が佇んでいた。プロの荒波を乗り越え、日本の野球界の頂点に立つ男の一人。鬼気迫る、というのはこのことか。彼にはこの試合が消化試合だということは関係の無いことらしい。
──圭介。
‥‥ん?
俺の耳は、おかしくなってしまったのだろうか?
何万もの折り重なった声のうちの一つが耳朶を打つ。
──圭介。
まただ。聞いたことのある声。
でも、聞いたことがない。
こんな、訴えるような彼女の声は。