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最速の翼
【戦争 その他小説】

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第五話 燃える基地-3

 空襲が終わったのはそれから二時間後のことだった。
 囮機に攻撃が集中したこともあってか、駐機中の機体は彗星が一機大破、一機損傷のみであったが、迎撃に緊急発進した六機の零戦は全機、撃墜されてしまっていた。飛行場も爆撃によって穴だらけとなり、離着陸に不便をきたすようになってしまった。航空機ハンガーも破壊され、機体はすべて冷たい夜空に見下ろされている。
 そして、何より兵士たちにこたえたのが、兵舎が破壊されてしまったことだ。これからは付近の洞窟や防空壕で生活をせねばならなくなってしまった。
「機体が無事だっただけでもよしとしようや」
 森口は自機の操縦席周りの点検をしながら二人に言った。彼らの彩雲は幸運なことに、どこにも損傷はなく無傷であり、三人は同時にほっと胸を撫で下ろした。
「そうですね。そういえば、彩雲って見るといいことがあるって言いますよね。今朝見たんですよ」
 西川が森口にウンチクを語った。こちらは、偵察席の点検を行っている。
「ほぇー。でも俺見たことないんだよな」
 森口は記憶の棚を漁ったが、彩雲を見た記憶は無かった。
「清水は見たことあるのか? 彩雲」
 電信席で旋回機銃の点検を行っていた清水は、振り返って控えめに言った。
「今年だけで五回ほどありますね。空を見上げることが多いので……」
「なんだ。やっぱり大体俺もそのくらいの回数は見てますよ」
 清水の言葉に西川も言葉を重ねる。
 彩雲は、日光が雲に含まれる水分に反射して光が屈折して虹色に光る現象である。見ると幸先がよいと言われているが、案外しょっちゅう見れるものである。
「えー。見たことない奴は俺だけかい……」
 森口はガクッと頭を垂れた。まこと、いちいち行動が大げさな叩き上げ軍人である。
「まぁ、ふっとしたときに見れますよ」
 清水は苦笑いしながら励ますように言った。
「うるせぇ、気休めなんかいるかい! 空襲もあったし、飛行場は凸凹だし、今日は酒飲んでさっさと寝る! 寝てやる!」
 森口は機体から飛び降りた。西川がその背中に向かって、点検の手を止めずに言った。
「酒はみんな兵舎と一緒に吹き飛びましたよ」
 その報告を聞いて森口は歯ぎしりして叫んだ。
「くそッたれー!」


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