第五話 燃える基地-2
「空襲だ! とっとと逃げるぞ!」
「たしか、防空壕がこの近くにありましたよね!」
「おう、飛行場西側の隅だったな!」
「ええ、さっさと行きましょうや!」
二人は走りながら防空壕の位置を記憶の棚から引き出した。その後ろを一、二歩遅れて清水が続く。
近くにあったと言ったが、結局四百メートルほど走って、やっと防空壕に着いた。出入り口はコンクリートで固められた頑丈な造りだったが、半地下式の内部は木板で周りの土を押さえただけの簡素な造りで、どうも頼りない感じだった。普段から多くの兵士が詰めている戦闘指揮所からは距離が離れていたからか、この豪には彼らが一番客だった。
「彩雲は大丈夫なんでしょうか?」
心配そうな声で清水が言った。
「わからん。整備の連中がうまいこと隠してくれていることを、祈るしかないな」
西川が壁にもたれかかりながら腕を組んで言った。
「それ、敵機が来たぞ」
出入り口付近で様子を見ていた森口が、慌てて中に引っ込んできた。瞬間、下から突き上げるような衝撃が襲ってきた。
ニコルス基地に来襲したのは、空母群から発進した艦載機隊である。迎撃のために、六機の零戦が空へ舞い上がる。その他の機体は的になるのを避けるべく、整備兵が急いで緑色のシートを掛けて隠していく。その作業を狙って、グラマンが急降下して機銃掃射を加える。運悪く狙われた駐機中の彗星が燃え上がる。
「全員、退避しろ! 各自、防空壕へ飛び込め!」
囮用のハリボテ零戦以外すべての機体にシートを掛け終わった整備兵たちは、整備班長の号令で蜘蛛の子を散らすように手近な豪にそれぞれ飛び込んだ。
「あいたたたた」
清水ら三人のいる豪に一人の整備兵が滑り込んできた。
「おお、島田かー。大丈夫か?」
森口が笑いながら、滑り込むのと同時につんのめって倒れた整備兵の名前を言いながら助け起こした。
「ありがとうございます、少尉。少尉らの彩雲は、きっちりシートを被せましたから安心してください」
整備兵は、服に付いた砂をはたき落としてから、森口に軽く頭を下げた。
島田上等整備兵は、偵察機を主に診ていて、もちろん彩雲に搭乗するこの三人とも親交があった。
「空襲はひどいのか?」
森口が様子を聞いた。豪内にも爆発音や、衝撃がひっきりなしに届いてくる。外はもっとひどい有様なのであろう。
「ええ。私の見た限りでは、敵機は囮機を狙っていましたが、もしかすると何幾かはやられるかもしれません」
島田は外の様子を簡潔に話した。それを聞いた森口は悔しげに唸った。