莟の既視感-2
少女の母は俺にとって、14歳も年の離れた姉である。
どうやら俺の両親は頑張ってしまったらしい?
物心がつく頃に、年の離れた“大人の姉”を認識した。
当時5歳だった俺にとって、すでに大学生だった姉はまるでもう一人の母の様な存在であった。
しかしもう一人の母に対する第一印象は“嫌な女”であった。
幼心に芽生えた気持ちは、成長につれ徐々に確信へと変わって行く。
“天は二物を与えず”と言う言葉を後に知るが、何故か気まぐれな神はその二物を姉に与えてしまった。
美しく賢い姉なら才色兼備で自慢なのだが、如何せんその性格は悪く弟の俺でさえ閉口する。
後にその姉が選択した教師と言う職業は、おそらく天職であったのであろう。
俺は幼少期に願った事を思い出す。
(気まぐれな神よ、姉に対し、いっそ三物目を与えたまえ)
もちろん、その三つ目が“優しい心”なのは言うまでも無い。
しかしそんな完全無欠の姉が、教職に就いてすぐに結婚し退職した。
相手は姉に似つかわしく“三つ目を備えていた”が、急逝した自姉の娘を養女として連れていた。
姉は自分が持ち合わせていない部分に惹かれたのか、周囲の反対を押し切る形でその相手と結婚した。
同時に俺は、“叔父さん”になっていた。
その姪の名は、恵利子と言った。
姪は成長と共に愛らしく育って行く事になる。
七つも年の離れた姪に恋心を懐き始めたのは、俺が18で恵利子が11の時である。
以来は俺は、人知れず恵利子に夢中になっていった。
叶わぬ恋であったが、それがいっそう深みにはまる要因でもあった。
「……」
30分もせずに気まずい雰囲気が漂う。
勝気な少女は10敗を通り超し、何と11連敗。
「あっ、あのさぁ〜」
気まずさから、無難にお茶を濁そうとする。
「汐莉、大人だから、約束守るからっ!」
そんな俺の言葉を小学生の言葉が制する。
「でっ、でも…… でも、見たら結婚してもらうからね」
震える声で最後の反抗といったところである。