輝ける場所-1
朝、目が覚めた。
今日の朝はやけに冷えるな…そう思ってまた布団をかぶる。テレビで天気を確認する気も起きない。
しばらくしてふと時計を見る。
「…ヤベ、遅刻する。」
ベッドから起きてスーツを着る。鞄の中身のチェックも忘れない。
そして、朝飯もそこそこに鍵をもって家をでる。
自転車に鍵を差し込んで、飛び乗り大学へ向かう。
そして、風が吹いたと思ったらまた記憶の中からあいつの声がする。
(ほら、はやくはやく!遅刻三日連続はヤバイでしょ?)
まだあいつが元気であいつ自身があんな事になる前の記憶だった。
ギュッと目をつむり、奥歯を噛み締めて大学へと自転車を走らせる。
大学の体育館はもうスーツをビシッと着こなした卒業生達でうめつくされている。まるで何かの群れのようだ。
溜息をつくと適当な場所を探し、ドカッと座った。その拍子にイスがギシッと音を鳴らす。そして、目を閉じて背もたれに身を預ける。
そうやってじっとしていると誰だかの小声での会話が聞こえて来た。
「ねぇ、あの人でしょ?なんか噂の人の恋人だった人って…」
どこか遠慮がちだったがどこかおもしろがっているように思えた。
どうして他人は人の事になるとあんなに残酷になれるのだろう?
隣のイスがギシッと鳴った。「あまり気にするなよ。どうせ、おもしろ半分で当人の事なんて考えてねぇんだから」
フッと笑ってやる。
「知ってるさ。だから、最初から気にしてない」
そう言ってニヤッと笑ってやる。
「お前、強いな…俺にはマネ出来ないよ」
そう言ってお互い黙った。多分お互い無理をしているのがわかったからだろう…
卒業式が始まり、学長が何か挨拶をしている。
かったるい…もとからこういう格式張った行事は苦手だし、退屈だからあまり好きではない。
ここは寝るが1番。そう思い目を閉じる。
(ねぇ、やっぱり好きな人と一緒にいるのってそれだけで幸せだよね)
また…またあいつが俺に話し掛けてくる。いつもそうだった。あいつは俺と一緒に遊ぶ時でもどんな時でも必ずこう言った。それは元気だった時でも、そうでなかった時でも変わらなかった。
(あたし…約束…果たせないかもしれないんだ…) あいつは悲しそうな顔でそう言った。
そう。俺はとても…とてもちっぽけで…はかない約束をあいつとした。
どんなにちっぽけでもどんなにはかなくてもそれにすがって俺も…あいつもそれを希望にしてわずかな光を放っていた。
そして、俺は光を失った。どんなに綺麗な月でも太陽が無ければ輝くことは出来ない。
光を失った俺は輝くことができなくなった。いや、輝くことをやめてしまったんだ。暗闇の中で身をひそめるただの星になってしまった。
あいつはそうなる事を知っていたのだろうか?あいつはしきりに俺を心配していた。
(あたしはあなたとは違う世界に行くけどあなたはまだ輝かなきゃいけない。この世界で…)
そういうあいつに俺は大丈夫だよ…と笑顔で言ってやっていた。
でもこれじゃあざまあない。あいつの心配していた通りになってしまった。