第二十一話 続く戦闘-3
暗闇の中、タコツボの一つに集まって、十数人の兵士によるささやかな夕食会が開かれている。日に日に人数は減っていくが、その悲しみを吹き飛ばすかのように兵士の顔は皆明るい。
「なんだこれは」
杉野は、レーションの中から、妙な物を発見して口に入れ、とたんに苦い顔をした。
「ゴムに味が付いてるぞ」
たまらず杉野は地面に吐き出す。
「これですか? どれどれ」
笹川が同じ物を取り出し、同じように口に入れた。
「うへぇ……駄目だこりゃ」
そして、同じように地面に吐き出した。
この食べ物の正体はガムである。当時、一応ガムは日本国内でも生産、販売がされていたものの馴染みは非常に薄かった。彼らはこの様な食べ物の存在をたった今、知ったのだ。
「アメリカのビスケットは甘くないですね。おいしいですけど」
笹川の隣では河田が、ビスケットを食べている。そのまた隣では横井が、牛肉の缶詰を貪り食っている。
「この牛肉の缶詰は結構、食べれますよ」
「口にソースが付いてるぞ」
杉野は笑って自分の口を指し、横井に付いている場所を教えてやる。横井はすいません、と言って袖で口を拭った。
「タバコだぜ、これ」
上等兵の一人が、タバコの入った小箱とマッチ箱を見つけて、火をつけた。
「俺にも吸わせろよ」
北沢は上等兵から一本、タバコを貰って吸い出した。
「なかなかうまいな」
たっぷり吸い込んだ煙を口から吐き出して北沢が言った。上等兵の方も、うんうんと頷いている。
「ふぅー。明日も頑張りますか!」
北沢はまた煙を盛大に吐き出して伸びをした。今日という日は終わりを迎えたが、戦闘はまだ終わりを見せようとはしなかった……。
ところで、彼らが食べた”けー・れーしょん”ことKレーションだが、本来の持ち主の米兵たちからは軒並み不評を買っていた。タバコとマッチ以外は使えないだの、恐怖のKレーションだのとかなりの言われようだった。原因は、味が単調でバリエーションも少ないためだったのだが、そのようなKレーションをうまいうまいと食べていたあたり、日本兵がいかに苦境に立たされていたのかがうかがえる。