第二十一話 続く戦闘-2
陽が西に傾き出した頃、米軍の勢いが急に強くなり始めた。
「シャーマンが来ましたぁ!」
上ずった声で河田一等兵が報告する。三十メートルほど先に、随伴歩兵に周りを固められたシャーマン戦車が一両、ゆっくりと近づいてくる。
「落ち着け! どうせここらまでは入ってこれん。破甲爆雷持ってこい!」
北沢は辺りの地形をよく見ていた。そして、この岩の多い場所には戦車が入ってこれないことも見抜いていた。部下にそのことを伝え、冷静に対処するよう指示を下す。笹川一等兵が破甲爆雷を取りに、一旦後方の弾薬庫へ走る。
「持ってきましたぁ!」
数分して、荒い息をしながら笹川が破甲爆雷を三つ抱えて戻ってきた。
「なんでぇ。これだけか?」
北沢は不満そうに笹川に確認した。
「はぁ……。弾薬庫にはこれだけしかありませんでした」
「文句は言えんか」
北沢は笹川から爆雷を一個受け取ると、安全栓を抜いた。さらに残り二つも受け取って安全栓を抜き、三つを一束に連結した。破甲爆雷は磁石が取り付けられてあり、爆雷同士を重ねて連結させて破壊力を増幅させる使い方もできた。
「私が、決死隊となって突撃します」
片野上等兵が、破甲爆雷を抱えて飛び出した。
「全員援護しろ! 撃ち方はじめ!」
杉野の号令で、その場の皆が一斉に戦車に向けて小銃、機関銃の猛射を浴びせた。随伴歩兵たちがたまらず戦車の影や、付近の岩陰に隠れるのが見える。
「片野今だっ!」
杉野は思わず半身を乗り出して叫んでいた。半身を乗り出した杉野を狙って、いくつかの銃弾が襲ってくる。驚いた河田が、杉野の身体を押し倒して地面に伏せさせる。だが、杉野のこの行為は無駄ではなかった。杉野へ一瞬だけだが、米兵の殆どの視線が集まったからだ。片野は、その隙を逃さなかった。
「おおおおおおお!」
起爆筒を叩きつけた破甲爆雷を、戦車の全面に片野は磁石で貼り付けた。パチン! 張り付いたのを確認すると片野は急いで戦車から離れた。しかし、戦車は離脱する片野を捉えていた。上部機関銃が火を噴き、片野は全身から血を吹きだして地面に倒れ伏した。
「よくやったぞ」
涙を溜めた杉野は、片野の遺体に向かって賛辞を贈る。
戦車は爆薬を張り付かせてから十秒後、爆発して擱座した。脱出する戦車兵を援護するためか、今度は米軍が猛射を浴びせかけてくる。
「手一つ出せやしねぇ」
北沢が忌々しそうに毒づく。しかし、猛射はすぐに終わった。米兵は脱出者を確保した様で、壊れた戦車をその場に残して後退していった。上空の戦闘機もいつしか消えていた。