第二十話 夜襲-3
ザクッ……ザクッ……。
杉野伍長は火の手の上がる飛行場を横目に、一心不乱にタコツボを掘っていた。この辺りは陣地の構築が間に合わず、昼は死闘を繰り広げ、夜は交代でタコツボを掘るといった日々を送っていた。今のところ押し寄せる米軍を食い止めてはいるものの、消耗は明らかにこちらの方が多かった。杉野の所属する第一一八連隊は、ついに兵員百名を切るところまで来ていた。
時刻は四時を少し過ぎたころだろうか。
「伍長殿。また夜襲です」
隣で同じくタコツボを掘っている笹川一等兵が、飛行場を指差して言った。杉野もそれを聞いて飛行場に目を向ける。
遠目に見える滑走路には点々と停めてある航空機が焚火のごとく燃え上がり、その明かりに米粒ほどの人影が照らし出される。そして、響く銃声。
「あ、またやった!」
笹川は、飛行場を食い入るようにして見ている。航空機の一機が火を噴き出す。夜襲をかけている友軍の兵士に破壊されたようだ。夜襲は、二時頃から始まって今の攻撃で三回目を数えていた。その度にこの場の兵士の殆どが作業の手を止め、あるいは目を覚まして夜襲に見入る。
「今野の部隊かな……」
杉野は、飛行場を護ると言っていた無二の戦友の顔を思い浮かべた。
「無事だといいが」
お調子者の戦友を想い、杉野は燃え上がる飛行場をしばし手を止めて眺める。小さく絶叫や雄叫びが銃声に混じって聞こえてくる。
杉野は目を伏せて、タコツボを掘り始めた。
夜襲が終わったのは明け方近くになってからだった。杉野らは一難あっても、何事もなかったかのように航空機を飛ばす飛行場を尻目に、米軍の迎撃の配置に着いた。
「今日も激戦になるぞ」
写真の中の妻に語り掛けて、杉野は二十七日の朝日を両目に迎え入れた。