おきてがみ-2
「由香、これは?」
「遺品よ。お爺ちゃんとお婆ちゃんの。」
「お父さんの方?お母さんの方?」
「お父さんの方。ねぇ、一馬…奇跡って、信じる?」
突然の由香の言葉に一馬はもちろん驚いていた。そして少し考えた後、横に座った由香の方を見て答える。
「信じるよ?僕が由香に会えたのも奇跡だからね。もちろん、僕にしてみれば由香と結婚できるのも奇跡みたいなもんだ。」
そう言いながら軽く頬にキスをしてきた。いつもこう。一馬の愛は一途で大きい、由香のことをとても大切に思っている。本当に自分にはもったいないくらいの人だと、由香は心の底から思っていた。
「一馬ってば。ちゃんと答えて。」
「ちゃんと答えたのに。僕はあると思うよ?なに、テレビでも見たの?」
テレビ好きな由香にとっては情報源がほとんどそれだが、いつもそうなわけではない。みくびるな、と言わんばかりに由香は一馬を睨んだ。
「実体験よ。一馬はないの?これは奇跡だなぁ、って思った事。」
由香の問いかけに一馬はうなりながら考えた。必死で記憶をかきまわして該当するものを探す。うなりは予想以上に長かった。
「それを言われると…すべてが奇跡のような気もするし。」
腕を組みながらさらに記憶を掘り起こす。また長いうなりが聞こえてきた。
あまりに必死で考える一馬が微笑ましく、由香は思わず顔がほころんでしまう。
「あ、由香!引っ越し屋さんに渡すお茶用意してないだろ?」
「え?うん。」
「それはいけない。僕が急ぎ買ってこようじゃないか!じゃ、そういう事で!」
「…逃げやがった。」
逃げるほどの事でもないだろ、と思いながらも由香は見送った。
ドアがゆっくりと閉まる。
引っ越し屋がくるまでは時間がある。由香は立ち上がり、一馬を追って部屋を後にした。
奇跡。由香には奇跡と呼べる出来事がたくさんあった。偶然でもすべてが奇跡に思えた時期もあった。
でも一つだけ、鮮明に覚えている奇跡がある。それは、大学時代に出会った奇跡。
由香は天使に出会った。